2011年01月10日

ホワイトスワン

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1990年の「ファイブマン」で視聴率や玩具売上がドン底まで落ち込んだスーパー戦隊シリーズでしたが、
翌1991年の「鳥人戦隊ジェットマン」で玩具売上は急激に回復し、視聴率も強力な裏番組の「らんま1/2」にはまだ及ばなかったものの、全体的に高い水準をキープしました。
そして、数字以上に世間に非常に注目された作品でもあったのです。
それは「戦うトレンディドラマ」という異名をとるほど、従来の戦隊作品ではあえて踏み込まなかった「戦隊メンバー同士の恋愛描写」を非常に深く描いたため、高年齢層の多大な反響を呼んだ、戦隊シリーズ屈指の異色作だったからでした。

ジェットマンというのは、そういう観点で論じられることの多い作品です。
あまりに恋愛描写の印象が強く、またそういう意味であまりに有名な作品であるために、一種伝説化してしまっており、
実際に作品を観ていない人がそういう印象だけでジェットマンを捉えてしまい、「ジェットマン=戦隊恋愛ドラマ」みたいな図式が世間的にいつしか定着しています。
本当にそうだったのかというと、それは少し違うと思います。
ただ、そうはいっても実際に恋愛が描かれたのは事実ですし、異色作であったのは間違いないでしょう。

物語冒頭で地球防衛軍スカイフォースの有する人工衛星アースシップが異次元からの侵略者バイラムの襲撃を受けて壊滅するのですが
その際、アースシップではある特殊鉱石から発するエネルギー波「バードニックウェーブ」を人間に浴びせて超人戦士ジェットマンを作るプロジェクトが遂行されており、
特殊鉱石から得られた5人分、5種類のバードニックウェーブを5人のエリート軍人に浴びせている途中だったのです。
1人目の被験者である天堂竜がバードニックウェーブを浴びてジェットマン第一号レッドホークになった直後、バイラムの突然の襲撃によって作業は中断され、
アースシップは破壊され、脱出出来たのは竜とプロジェクト責任者の小田切長官の2人だけで他の者は全滅、そして残りの4人分のバードニックウェーブは実験用機械の破壊と同時に4条の光となって地上(日本の関東地方あたり)に降り注いでしまったのでした。

で、小田切長官がバイラムと戦うためにジェットマンが5人揃わなければいけないと言い出します。
5種類のバードニックウェ−ブの共鳴作用によってこそジェットマンは最大の力を発揮することが出来るからです。
そこで、竜は地上でバードニックウェーブを浴びた4人を探し回ります。まぁ竜の身体の帯びているバードニックウェーブと共鳴するので捜すのはそんなに大変ではないのです。
見つかった4人は、財閥の令嬢の鹿鳴館香、純朴な農業青年の大石雷太、女子高生の早坂アコ、女好きの遊び人の結城凱。
しかし彼らはバードニックウェーブのプロジェクトのことも知りませんし、バイラムの脅威も知りません。
そもそも地球や人類を守るために戦うという使命感もありません。自分の日常生活の方が大事です。
それで、戦うことを拒んだり、遊び半分で参加したり、バイト代を要求したりと、好き勝手なことばかり言います。
そうした寄せ集めの民間人4人と、一人だけプロ戦士の竜とが、ドタバタと揉めながらバイラムと戦っていくのです。

そうしたドタバタの中で恋愛描写が出て来るのです。
ところで恋愛描写というのが、ジェットマン以前の戦隊作品では「あえて描写されていなかった」とよく言われますが、それは少し違うでしょう。
よく「男女が同じチームで身近に接しているのだから恋愛感情が芽生えない方がおかしい」と言います。
しかし強大な敵との真剣な戦いの最中に仲間内で恋愛感情を持つ余裕はあまり無いでしょうし、仮に恋愛感情が芽生えたとしても、それを告白したりするのは後回しになるものでしょう。「今はそんなこと言ってる場合じゃない」と考えるのが戦士の常識というものです。
それがジェットマンでは恋愛感情が芽生え告白し、恋愛模様が展開していくというのは、つまり彼らが戦士ではないということです。
もともと戦士の自覚など無く、単にたまたま事故のように空から落ちてきたバードニックウェーブを浴びてしまったためにイヤイヤながら、あるいは軽いお手伝い感覚で戦っているだけであって、心の中は戦士にはなりきっていないまま戦っているのです。
例えば、ジェットマンは初めて変身後も本名で呼び合う戦隊でしたが、それもプロ戦士の自覚が無い戦隊だからなのです。(まぁファイブマンは兄弟なので時々名前で呼び合っていたし、ターボレンジャーはプロ戦士の自覚は希薄だったが正体を隠す必要があったので本名呼びをしてなかったのだが)
とにかく、そういうアマチュア意識だからこそ、仲間内で恋愛ゲームのようなことにも興じてしまうのです。

scan010.jpgこのジェットマンにおける戦隊ヒロインはダブルヒロイン制となっており、ホワイトスワンとブルースワローの2人います。
そのうち、この恋愛ゲームに参加するのはホワイトスワンの方で、鹿鳴館香が変身します。
香は財閥の令嬢で、退屈な日常から脱するために竜の誘いを受けてジェットマンに参加します。
わがままで世間知らずのお嬢様が気軽に自分探し感覚で戦いに参加したのです。当然、挫折することになるのですが、今さら簡単に辞めることは出来ません。バードニックウェーブを浴びた人間に替わりはいないわけですから。
香は落ち込みます。もともと温室育ちのせいで基本的能力が5人の中で最弱なので、ジェットマンになっても一番能力が低く足を引っ張ってしまいます。もう嫌になって辞めたくもなるのですが、辞められません。
竜も香が辞めないように一生懸命励ましたりして、香ももともと意外に芯が強く頑張り屋、というか意地っ張りなので、結局頑張ってしまいます。頑張ってメカに詳しくなったり射撃の腕を上げたりして香も成長していきます。

そして、そういう励まされたりしている遣り取りをしているうちに香は竜の真剣な戦士としての姿勢に惹かれて恋心を抱くようになります。それで告白するのですが見事にフラレます。竜はプロ戦士なので一緒に戦う仲間と恋愛ゲームなどする気は無いというわけです。
この香に対して凱が恋愛感情を抱きます。凱は香をさんざん口説きますが、香は竜のことが忘れられず、凱はフラレ続けます。それで凱は面白くなく、もともと真面目人間の竜が気に入らないので、ますます竜を敵視するようになります。それで凱が竜に突っかかって揉めることが多々あるのですが、凱は凱で実は独自の正義感を持った熱い男であり、その実態を知るにつれて香も竜も凱のことを認めるようになり、香は凱の気持ちを受け入れて付き合うようになります。

この後、アースシップ壊滅時に死んだと思っていた竜の恋人リエが生きていて、洗脳されて敵バイラムの幹部マリアとなっていることが分かります。そのことを知って竜はショックを受けて戦意を失ってしまいます。
つまり竜は香に言っていたような「戦う仲間と恋愛はしない」なんていう御立派な戦士ではなく、ちゃっかり戦う仲間(リエはジェットマンになるはずだった)と恋仲になってしまうような男で、リエのことが忘れられないから香をフッただけのことだったのです。
ところが凱はこの情けない竜の実態を知って、逆に竜が冷たい戦闘機械ではなく血の通った人間だったと知って、竜を庇うようになり、それをきっかけに今まで自分も竜のことを認めていたことに気付くのです。
凱の励ましで立ち直った竜は凱と強い絆で結ばれるようになります。
一方、凱は香と付き合っていくうちに生まれ育ちの違いを感じて気持ちが冷めていき、2人の仲は自然消滅していきます。

そして、立ち直った竜ですが、なんとかリエを取り戻そうと奮闘しますが、結局はリエを取り戻すことは出来ず、記憶の戻ったリエはバイラムの最後の敵ラディゲに殺されます。それで竜はヤケになって復讐のために1人で戦おうとしますが、それを香が「リエは正義のために戦う竜が好きだったはず」と止めます。
それによって竜はリエの死を受け入れて復讐を止め、正義のために5人で戦ってラディゲを倒し、戦いが終わります。

その後、竜は香と付き合うようになり、3年後に竜と香は結婚します。その結婚式に行く途中で凱はひょんなことでチンピラに腹を刺されてしまいますが、香に気持ち良く竜と幸せになってもらうために結婚式をしている教会へ無理して行き、ベンチに座って香に微笑みかけて静かに息を引き取ります。

香を取り巻く恋愛模様というのは、こういうものです。
それ以外の戦隊ヒロインとしての香の特徴としては、一応ダブルヒロインにおける「弱いヒロイン」のタイプに分類されるとは思います。
戦闘力は5人の中では一番低く、ひたむきな努力家で、真面目でおとなしい性格だからです。ルックス的にも美人です。
しかし他の渚さやかや星川数美という「弱いヒロイン」のように特に頭脳派であるような描写もありませんし、特に優しさや母性が強調されてもいません。美人という点も、確かに美人ですが、片割れのアコも結構可愛いので、そんなに際だった印象はありません。

むしろ、そういう賢明さや博愛精神などがあると、香の最大の特徴である「恋する女」という側面に支障をきたしかねないので、そうした賢明さや博愛精神は抑制された設定になっているようにも思えます。
逆に、恋愛関係で変に行動的だったり迷ったりする香の行動に説得力を持たせるために、香は美人で世間知らずのお嬢様で頼りない、つまり男から見て「つい構いたくなる弱い女」という設定にされているように見えます。
こうなると、香というキャラの設定は、一見「弱いヒロイン」のように見えて、戦隊ヒロインとしての印象はどうも薄く、実は「恋するヒロイン」であり、弱さや真面目さや美人であることなどの香の全ての属性は「恋するヒロイン」に説得力を持たせるための要素であったかのように思えてきます。
すると、香というキャラの存在意義は「正義のために戦うこと」ではなく、「戦隊内で恋愛すること」だったということになります。これは通常の戦隊ヒロインとはかなり異質です。というより、厳密な意味で戦隊ヒロインといえるかどうか微妙ですらあります。
ダブルヒロインの片割れがこれですから、このジェットマンという作品のダブルヒロインは非常に異質で、ちょっと一筋縄ではいきません。

それでは香の恋愛模様を描くことが香というキャラの存在意義だったのかというと、それは違います。
そもそも上記の香と竜と凱およびリエの四角関係の主題が男女の恋愛を描いたものかというと、それは違うでしょう。
ここで描かれているものの本質は、竜という主人公にとっての戦いの意味と、その竜と凱との友情の物語です。そして、その2人の関係に象徴される、最初はバラバラだったジェットマンの5人が成長して真の仲間になっていく過程です。

竜は本当はプロ意識で戦うクールな戦士ではなく、愛する者がいてこそ戦える熱い男なのです。だからリエにいつまでもこだわり、リエの死を受け入れた後は香の存在を必要としたのです。
一方、凱は竜の真実の姿に無意識に気付きながらも表向きのクールさに反発しており素直になれません。香を口説いたのも竜を出し抜いてやりたいという対抗意識です。だから、いざ香を手に入れるとすぐ気持ちが冷めてしまい、竜の真実の姿を目の当たりにして自分の竜へのシンパシーに気付くと香との付き合いはどうでもよくなっていくのです。そして香と凱の仲が自然消滅していくのと並行して、竜と凱の友情は深まっていくのです。

これは竜も凱もそれぞれの文脈で成長していっているわけで、その結果、2人の絆は強固になるのです。他の3人も同様に成長していって、5人が最後には真の仲間になることで物語は完結するのですが、それを象徴するストーリーとして、特にこの竜と凱のストーリーが強調されています。
香という「恋するヒロイン」は、この竜と凱のストーリーを成り立たせるための重要な触媒の役割を果たしているのです。そのためにこそ存在意義があるのだといえます。

これはジェットマンという作品において非常に重要な存在意義なのです。
ジェットマンという作品は明らかに高年齢層をターゲットにした作品です。ジェットマンのモチーフが鳥で、それが戦隊の源流であり往年の人気アニメである「科学忍者隊ガッチャマン」を強く意識していることからもそれは窺えます。
高年齢層向けには重厚なストーリー展開を売りにするのが戦隊シリーズの伝統です。
フラッシュマンでは親子の絆、マスクマンでは悲恋物語、ライブマンでは青春の苦悩などが描かれましたが、このジェットマンで描かれた重厚なストーリーは、まさに「バラバラだった5人が成長し結束していく物語」であり、それを象徴するのが竜と凱の友情の物語だったのです。別に軽薄な恋愛模様を描写することがこの作品のテーマではないのです。
その竜と凱の物語を成り立たせるために香というヒロインの存在は不可欠だったのです。
だから、香というヒロインの存在意義は、単なる戦隊ヒロインとしての意義などよりも更に重要で、作品のテーマそのものに直結するわけです。香はこの物語の真のヒロインなのだといえるでしょう。
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posted by 通りすがりのシンケンブラウン at 22:02 | Comment(0) | 戦隊ヒロイン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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