2012年11月20日

海賊戦隊ゴーカイジャー妄想物語その6


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ザンギャックという巨大な宇宙帝国が地球に攻撃を仕掛けてくる可能性が高いということが2ヶ月ほど前に広報され、地球の人々は動揺していました。そのザンギャックを迎え撃つために世界中の軍隊や諸機関が準備を整えているという話も都市部では連日報道されており、戦火から逃れるための避難施設は未だ十分に整備されているとはいえないから、依然急ピッチで建設が進められているという報道も住民たちは耳にタコが出来るほど聞いていました。その一方で、今回ザンギャックが侵攻してきたら、スーパー戦隊が集まって地球を守るために戦うという話が急に持ちあがってきたのでした。
地球の人々はスーパー戦隊というものが存在することはもともと認識しています。当然、1975年に最初の戦隊であるゴレンジャーが活動していた頃から、ゴレンジャーという戦隊が黒十字軍と戦っていることを知っている人はいました。ゴレンジャーはその名の通り秘密戦隊であり、公式にはそのような戦隊は存在していないという扱いになっていましたが、それは戦いの中でメンバーや関係者、組織そのものの安全を確保するための措置であり、実際に活動している以上、存在していること自体は間違いない。ただ正体が何処の誰であるのか、どういう組織に属しているのかなどが全く謎であったに過ぎない。世界中のどの公的機関に問い合わせても、自分達はそのような戦隊の存在は関知していないと回答したので、公式には存在しない戦隊という扱いであったわけです。
そういう不確かな存在であったので、ゴレンジャーの戦いの噂を聞いても、実際に自分の目で見なければその噂を信じない人も多く、仮にゴレンジャーの戦っている姿がテレビカメラなどで撮影されたとしても、ゴレンジャー本人のコメントなどを撮影できるわけではないので、インチキや悪戯、トリックの類ではないかと疑う人も多くいました。つまりゴレンジャーは世間的にはその実在は確実視されてはいたものの、正体はよく分からない謎の戦隊でした。
ただ、実際に事件に巻き込まれてゴレンジャーと接触した人も多く存在し、そうした人達にとってはゴレンジャーは確かに存在するものと認識されていました。また、国連関係者はもちろん一部公的機関の間では、ゴレンジャーが国連所属の秘密組織イーグル機関の特殊部隊であることは知られていましたが、ゴレンジャーのメンバーの正体まで知っている者はイーグルの中でも一部の者達だけでした。

そのように世間では謎の戦隊という扱いであったゴレンジャーですが、彼らが悪の組織である黒十字軍と戦う正義のヒーローであることは世間の人々は認識していましたから、ゴレンジャーの活動期間、世間ではその正体は謎のままゴレンジャー人気というものは存在し、ゴレンジャーグッズなどというものも売り出されていました。
しかし、1977年の春あたり以降、ゴレンジャーの活動が世間で認識されなくなっていくと、ゴレンジャー人気は下火となっていき、世間の人々はもうゴレンジャーはいなくなってしまったのだろうと思うようになっていきました。
代わって1977年春以降は犯罪組織クライムと戦う謎の戦隊であるジャッカー電撃隊の活動が世間で知られるようになっていき、ジャッカー人気が高まっていき、そして1978年になってジャッカーの活動が見られなくなっていくと、世間のジャッカー人気も消え去っていき、ジャッカー電撃隊もいなくなったと世間の人々に思われました。
その後も同様に、別の謎の戦隊が現れて悪の組織と戦いを繰り広げるようになると、世間ではその戦隊のちょっとしたブームが起き、その戦隊の活動が終わると、世間の人々はその戦隊のことはもういなくなったものと見なして忘れていきました。

世間の人々がそれぞれの戦隊について知っている内容の程度は、各戦隊ごとに異なっており、戦隊の使用する巨大ロボや巨大メカ、等身大戦闘時に使う武器や変身後の姿形などは大抵の戦隊は広く世間に知られていましたが、変身前の素顔は基本的に秘密にしている戦隊が多く、戦士の素顔や名前などは世間では知らない人が大部分でした。ただ、それでも長く戦っているうちに素顔を見られることや、本名が知られたりすることもあり、そのあたり世間に認識されている度合いが各戦隊で異なっていたのでした。
各戦隊ごとに細かい差異はありますが、極めて大雑把に言えば、世間で一般に知られていたのは各戦隊の変身後の姿や装備類、戦いの大まかな歴史であり、変身前の素顔や名前などの情報は未確認の怪しげな情報が一部で出回っていた程度といえます。ただ、世の中にはUFOマニアや心霊現象マニアなどが存在するのと同様に、戦隊マニアというべき人種も少数派ながら存在し、それら戦隊関連の未確認情報を収集してまとめて、ああでもないこうでもないと語り合うような連中もいました。
そうした戦隊マニアにおいても一般人においても、毎年のように現れる様々な戦隊が何らかの関連性を持っているのではないかという見方は存在していました。だが、個々の戦隊同士の間で繋がりがあるような様子も見受けられなかったので、やはり個々の戦隊はあくまで別々の存在なのではないかという見方も多く、要するにそのあたりは不明なままでした。実際、各戦隊の間に、例えば背後に共通の組織があるというような明確な繋がりは存在してはいませんでしたので、後者の見方が正解であったといえます。

ただ、各戦隊のメンバー自身も自分達と同じような戦隊が自分達の前にも後にも他に存在しているということは認識していましたし、それらの存在は「この星の意思」にも「大いなる力」を持っているという意味で自分達と同類であるかのように示唆されていたので、彼らは自然に自分達の他の戦隊にも興味を持つようになり、戦隊マニアの間で流布されていたような未確認情報なども使って、あるいは偶然他の戦隊と共闘することもあったりして、次第に戦隊同士の連絡をとるようになっていき、遂には2001年にゴレンジャーからタイムレンジャーまでの24戦隊のレッド戦士が集まって、25番目の戦隊ガオレンジャーと共闘し、「スーパー戦隊」と名乗ることになりました。
この時、25戦隊のロボやメカが市街地で勢揃いしたのを街の人々は目撃しており、人々は遠い過去に姿を消したゴレンジャーなどの伝説的な戦隊が未だ実在し活動していたことを知って驚き、25の戦隊が「スーパー戦隊」という1つの繋がりを持った集団であることを初めて明確に認識しました。
しかし、それはたった1日の出来事であり、さほど多くの人々に目撃されたわけではない。その後は25戦隊が集まって戦うというようなこともなく、タイムレンジャー以前の24戦隊が1つとして姿を現すことすらありませんでした。だから、直接その光景を目にした人達以外は本当にそんな出来事があったのか疑う者もあり、25の戦隊による「スーパー戦隊」というものも、2001年以降、年を重ねるごとに次第に不確かな伝説のような扱いとなっていったのでした。

2001年以降も悪の組織と戦う戦隊の存在はいくつも確認されており、それらもその25の「スーパー戦隊」と関連があるのかもしれないという見方は存在していましたが、確証があるわけでもなく、彼らが「スーパー戦隊」と共闘したという目撃例もありませんでした。2006年にはボウケンジャーと4戦隊が共闘するという事件が起きていますが、戦いは人目につかない場所で行われたので人々は目撃せず、そもそもこの4戦隊はいわゆる25の「スーパー戦隊」ではありませんでした。
だから結局、2011年時点での世間の人々の認識としては、「スーパー戦隊」とはゴレンジャーからガオレンジャーの25戦隊のことを指し、この25戦隊は今や実在しているかどうか定かではない伝説的存在となっていました。
また、ガオレンジャー以降も、マジレンジャー、ゴーオンジャー、シンケンジャーという3つの戦隊の存在は確実に確認されており、一部ではアバレンジャー、ボウケンジャー、ゲキレンジャーという戦隊も存在するとも言われ、これらの戦隊もまた「スーパー戦隊」と関係があるのではないかとも噂されてはいましたが、何せ「スーパー戦隊」そのものが半ば伝説的存在であるので、噂はあくまで噂という状態でした。
また、誰もが知っている宇宙警察のスペシャルポリスであるデカレンジャーも、この「スーパー戦隊」に関係すると噂の一連の戦隊のうちの1つに数えられるという説もあり、そのあたりもマニアの間では議論の分かれるところでありました。
ちなみにハリケンジャーとゴセイジャーに関しては、双方とも戦いを目撃した人の記憶を消す方針であったので、この2戦隊の存在は人々に認識されてはいませんでした。ただ、黒子ロボットを使って記憶を消すハリケンジャーの方は天装術を使うゴセイジャーに比べて記憶消去が徹底していなかったので、「ジャカンジャという悪の組織が存在し、それと戦う正義の戦隊が存在していた」ということぐらいは結局世間に認識されていました。

世間の人々のスーパー戦隊に関する認識がそういう感じであったところに、2011年8月、突如、想定されるザンギャックとの戦いにおいてはスーパー戦隊も参加するということが告知され、人々は驚きました。今や古い都市伝説のような存在となった伝説の25のスーパー戦隊はやはり実在していたのかという驚きに加え、その参戦するというスーパー戦隊の発表されたリストを見ると、その戦隊数が25ではなく30となっていたことにも人々は驚かされました。
そのリストによると、2001年のスーパー戦隊の出現時に「スーパー戦隊」として認識されていた25戦隊に加えて、2002年以降に人々がその存在を認識していた戦隊であるマジレンジャー、存在が噂されていた戦隊であるアバレンジャー、ボウケンジャーもそこには含まれており、宇宙警察のデカレンジャーもそこに名を連ね、更には初めてその名を目にするハリケンジャーという戦隊もリストにはありました。なお、近年人々が存在を認識していた戦隊であるゴーオンジャーやシンケンジャー、存在が噂されていたゲキレンジャーなどはそこには名を連ねていませんでした。
そして、このリストにおいては、世界中の各機関と共同で戦う関係上、それぞれの戦隊が所属している組織や機関の名も添えられていました。中には何の組織にも属していない戦隊もありましたから、そういう戦隊については特に明記はありませんでしたが、例えば国連のもとにイーグルという秘密組織が存在しておりゴレンジャーがそのイーグル所属であることや、ジャッカー電撃隊が国際科学特捜隊所属であることなどは、これまでにも噂はされていたことでしたが、初めて広く公式に認められました。
他にサンバルカンが地球平和守備隊所属、チェンジマンが地球守備隊所属、オーレンジャーが国際空軍所属であることも公式に認められ、このリストにはゴレンジャーの海城、ジャッカー電撃隊の番場、サンバルカンの飛羽、チェンジマンの剣、オーレンジャーの星野などの名が責任者として明記されていました。
そして以前から秘かに噂されていたサージェス財団による危険な秘宝プレシャスを確保し世界平和のために封印するという事業も初めて公式に認められ、その実行部隊がボウケンジャーであることも公表され、今回の戦いに際してプレシャスを使用する全権責任者としてチーフの明石の個人データも公開されました。

これらの具体的情報を告知されても、それでも人々は驚くばかりでした。子供の頃や若い頃に都市伝説のように噂され憧れたことのあるような伝説的なスーパー戦隊が実在しており、結集してザンギャックと戦うと言われても、敵であるザンギャックの姿もまだ見ていないのもあり、それが現実的な出来事としてピンとこなかったのでした。
しかし、そうして人々が唖然としているうちに9月となり、ザンギャック軍の接近が警告され、世界中の人々は戦火に巻き込まれないよう最寄りのシェルターなどに避難するよう指示されました。結局ザンギャック軍来襲までにシェルターは全人類を収容できるほどの量はもとより、全ての都市生活者を収容するほどの量も用意できなかったので、比較的被害が軽微であろうと予測される田舎の方に避難できる都市生活者は既に避難しており、都市に残っているのは都市生活を支えるために必要な人々とその家族ぐらいでした。
その残った人々だけでも建造済みのシェルターに全員入りきるにはやや苦しい状況でしたが、なんとか寿司詰め状態で無理に全員入り、息を潜めていると上空に遂にザンギャック艦隊が現れました。その艦数のあまりの多さに人々は驚き、大きな恐怖を覚えましたが、次の瞬間、迎撃準備を完全に整えていた地球上の全ての軍事力が一斉に解き放たれ、その全破壊力を上空に出現したザンギャック艦隊に浴びせ、あっという間にザンギャック艦隊は1隻残らず殲滅されたのでした。



0061.jpgこの上空の一大スペクタクルを東京都の西部にある中規模都市のはずれで呆然と見上げていた少年がいました。少年は新宿で小さな食堂を営む伊狩というコックの3人の子供のうちの末っ子で、その名は鎧といい、16歳の高校1年生でした。
鎧の通う新宿の高校はザンギャック騒動が持ち上がった時には夏休みに入る頃でしたが、ザンギャック襲来に備えて家族単位で田舎に疎開しない家の子弟で学生の者は学校単位で疎開するという選択肢もあり、伊狩家は疎開しない方針であったので、末っ子で高校生の鎧は同様に家族が疎開しない生徒たちと共に山梨の方に8月段階で疎開していました。そのまま9月になって新学期となってもザンギャックへの警戒体制が続いていたので疎開先で授業開始となり、どうもそのまましばらく山梨の方に落ち着くことになりそうな気配となりました。
鎧の父親は流しの料理人で、子供たちが小さい頃から日本各地を転々として様々な店に勤めて修行を積んできましたので、鎧たち兄妹も見知らぬ土地で環境に馴染むことには慣れていました。鎧より9歳年上の姉は高校を出た後、東京で一人暮らしして働き、父と同じコック志望の男と出会って5年前に結婚し、3年前に長男を出産しました。鎧の父は4年前に長年の流し生活に終止符を打って新宿に自分の店を構え、鎧の5歳上の兄は東京都内の料理学校に通いながら母と共に父の店を手伝っています。
姉夫婦も父の店の従業員となっていますが、ザンギャック騒動がいよいよ物騒なことになってきたので、父母と兄は店があるので東京に居残るが姉夫婦は小さい子供もいるので東京を離れた方がいいという話となり、鎧が真面目に生活しているか監視することも兼ねて、鎧のいる山梨に一旦行くということになりました。
それで鎧は姉夫婦を迎えに行くために新宿に向かっていたのですが、その途中でザンギャック軍接近の警報が出て、慌てた鎧は付近のシェルターが何処にあるかすぐに分からず、とりあえずそこらへんの物陰に隠れました。そうして恐る恐る空を見上げていると膨大な数のザンギャック艦が出現し、すぐに地上からの対空砲火や迎撃戦闘機、上空の衛星兵器などからの一斉攻撃によってザンギャック艦隊が全滅するのが鎧の目に映りました。
その凄まじい光景に唖然とした鎧でしたが、一瞬遅れて、勝利の歓喜の想いが湧き上がり、物陰から飛び出して思わずガッツポーズで吼えていました。鎧と同じように、シェルターの中でモニターで外の様子を見ていた人々も大勢飛び出してきて大喜びしていました。
シェルターの中は無理にぎゅうぎゅう詰め状態であったので、人々は戦いが終わったという解放感で皆シェルターから出てきて、家路につき、鎧も再び新宿に向かって歩き出しました。先ほどのザンギャック接近警報で電車は止まっていたので、とにかくまずは電車が復旧するまでは歩くしかありませんでした。
もちろん鎧が全世界の状況を把握できるわけはありませんでしたが、おそらく全世界で同じように人々は勝利を歓喜して平和な生活に戻りつつある。そのように鎧は思っていましたし、鎧と同じように思う人々が大多数であり、そして実際に世界中の人々は歓喜してシェルターを飛び出し、元の生活を取り戻そうとしていました。

しかし戦いは実は終わっていませんでした。地球に到着したザンギャックの地球侵略艦隊のうち、大気圏を突破して人々の頭上に姿を現したのは、たかだかその1割ほどの艦船であったのです。大気圏を突破してきたのが敵艦隊の全部ではないことは防衛戦を戦っている軍関係者や戦隊関係者はみんな事前の分析でだいたい分かっていましたが、ザンギャック側がどのような作戦で攻撃してくるのか事前に分かっていなかったので人々に現れるザンギャック艦隊の規模などを予告するわけにもいかず、結局多くの人々は上空に現れた艦隊がザンギャックの全軍だと勘違いしてしまったのでした。
全体の1割の先遣隊といってもこれまで地球人が見たこともないほどの巨大な規模の艦隊であり、シェルターで窮屈な想いをして早く避難から解放されたいと思っていた地球人がそれをザンギャックの全軍の総攻撃と誤解してしまうのも無理もありませんでした。
一方、ザンギャック側もワルズ・ギル総司令官の命令で中央軍を全部掻き集めてやって来たものの、このようなちっぽけな星など1割の先遣隊の奇襲で容易く落とせると甘く見ていました。そもそもザンギャック側は自分達の侵攻を迎撃する準備を地球側が完全に整えているなどとは思っていませんでした。それで無警戒に突っ込んで行った先遣隊は全滅の憂き目にあい、ザンギャック側は地球人が思ったよりも手強いと気付き、軍司令官は先遣隊全滅の汚名をそそぐべく、配下の全軍に地球への一斉侵攻を命じ、力押しで一気に地球制圧を図りました。
0063.jpgそうして、司令官の本陣1割を残し、残り8割のザンギャック全軍は宇宙空間から一斉に大気圏を突破して地球に突っ込み、大空を覆うようにその威容を地球人の頭上に現しました。これを見て、地球側も全攻撃力で迎撃、今度は全スーパー戦隊のマシン類も出撃して迎え撃ちました。しかし、ザンギャック側が待ち伏せされていることが想定外であったのに対して、地球側はザンギャック艦隊の規模がこれほどまでというのはやや想定外でありました。
地球側の全兵力で迎撃し、確かに戦闘の起きている局面では地球側がザンギャック艦隊を撃破しているのですが、あまりにザンギャック艦の数が多すぎて、戦闘局面すら作れずに迎撃しきれずに撃ち漏らす艦が多数あり、それらは防衛線を突破して市街地を急襲し、空爆を敢行したのでした。そこに更に地球側のスーパー戦隊のマシン類などが追いすがり、地上を攻撃したザンギャック艦を撃ち落していきましたが、ザンギャック艦の数が多くてなかなか全部に対応しきれません。特にこの初日の空爆は、先遣隊の撃破で戦争が終わったと勘違いした人々が多数自宅などに戻っていた時であったので、世界中で被害は甚大となりました。
そうしてザンギャック側も空爆が一定の戦果を上げたのを確認すると、地球側の抵抗が激しいので一旦宇宙空間の本陣に撤退しました。こうして連日力押しで空爆を続けていけば、遠からず地球側の抵抗勢力の力も削がれていき、そうなれば一気に地上軍を繰り出して制圧してしまえばいいというのがザンギャック軍の作戦であり、こうして地球とザンギャックの戦いは始まったのでした。

さて、先述の伊狩鎧という少年も、家族の待つ新宿に向かう道の途中でその最初の空爆を目撃することとなりました。先ほど上空に出現した大艦隊の撃破で戦いは終わったものと思い込んで先を急ぎつつ、鎧は携帯電話で新宿で待つ家族のもとに連絡をして、ザンギャック軍が全滅したので皆ひとまずシェルターから出て自宅に戻っているので、予定通り自宅に来てくれればいいと聞きました。
そして鎧が電話を切った直後、突然また上空にザンギャックの大艦隊が現れ、しかも今度は先ほどの艦隊を遥かに上回って空を覆うようなとんでもない大艦隊でありました。仰天してその場にへたり込んだ鎧が見つめていると、またザンギャック艦隊と地球側の戦闘が上空で繰り広げられている様子で、上空で多数の火花が散り、火柱が上がりました。
しかし今回は敵艦の数があまりに多く、仕留めきれなかった敵艦は低空にまで侵入していき、鎧の視線の先にあった高層ビル群のあたりにザンギャック艦の砲撃による火柱が多数上がりました。その火柱を見て鎧は真っ青になりました。その高層ビル群は鎧が目指している、家族のいる新宿のあたりだったからです。
鎧は一瞬放心状態となった後、慌てて家族の無事を確認しようと携帯電話を取り出そうとして、手にしていた袋を落としてしまいました。すると、その袋の中から本が飛び出し、地面に投げ出されました。その本は「星の伝説」という絵本で、作家は青山晴彦、あのギンガマンについて描かれた絵本でした。

鎧は料理人一家に育ち、幼い頃から料理に親しんで生きてきたのであり、実際料理の技も親から適当に仕込まれており、料理は得意でした。しかし鎧は父や兄のように料理人になろうと思っているわけではない。まだ高校1年生ですから将来の進むべき道が明確に決められないというのが実際のところでしたが、実は鎧は子供の頃の夢想をずっと引きずっており、少し前までは、それがどうも自分の将来について現実的なビジョンを持つことを妨げているのかもしれないとも自覚していました。その子供の頃の夢想とは「スーパー戦隊の戦士になりたい」ということでした。

0060.jpg1999年、鎧が4歳の時、父親が刊行されたばかりの「星の伝説」を買い与えてくれました。そこには悪い宇宙海賊と戦うギンガマンという名の6人の伝説の戦士たちの物語が描かれており、鎧はその絵に夢中になって、父に何度も読んでもらいました。
その時、父はこのギンガマンという戦士たちは現実に存在しているのだと教えてくれました。ギンガマンはちょっと前まで現実に宇宙海賊と戦って倒した強い戦士たちであり、この絵本作家はその戦いをヒントにしてこのお話を描いたのだろうと、幼い鎧に父は教えてくれたのでした。鎧はその父の話が印象に残り、「伝説の戦士は実在する」という想いと共にこの絵本を大事にしていました。
そして2001年、鎧が6歳の時、そのギンガマンが本当に現れたのだという話が鎧の耳にも入ってきました。ギンガマンのギンガレッドが絵本「星の伝説」に描いてある通りにギンガレオンに乗って現れて戦ったのだという。しかも現れたのはギンガマンだけではない。ギンガマンも含めた25個の「スーパー戦隊」の赤い戦士たちが集まって悪者と戦って打ち破ったのだというのです。
この時、鎧は初めて「スーパー戦隊」という言葉を聞き、それが確かに実在しているギンガマンの仲間たちだと認識し、興味を持ちました。それで父親に「スーパー戦隊」のことをもっと知りたいと言ったら、父はその年から「スーパー戦隊」と認識されるようになった過去に存在した24戦隊やガオレンジャーの玩具や子供用の本などを幾つか買ってくれて、鎧はそれらのお蔭で「スーパー戦隊」について子供の分かる範囲内でかなり知識を持つことが出来るようになりました。
ただ、何せスーパー戦隊は数が多く、子供用の資料でも全部網羅しようとすればかなりの量となり、鎧のスーパー戦隊への興味はなかなか満足することはなく、鎧は父親に何度もおねだりしてスーパー戦隊関連商品を買ってもらっていました。

そうこうしているうちに鎧も小学校に入学しましたが、当時はまだ父が流しの料理人であったため、伊狩家は数ヶ月、短い時は1ヶ月も経たずに引っ越しを繰り返すという日々を送っていました。学校に行っていない間は色んな場所に行けることが普通に面白かった鎧でしたが、学校に通うようになると、せっかく友達が出来てもすぐに別れなければならず、新しく転校した学校ではもう他の子同士は友達になっていて仲間外れされているような気がして、転校生活がすごくイヤになってきました。
それで鎧は学校でクラスメートに話しかけるのも止めてしまい、ずっとスーパー戦隊の本などを読んで1人の世界に閉じこもるようになりました。そうしているうちにますます鎧はスーパー戦隊にのめり込んでいき、自分もこんなつまらない学校なんか行かずに今すぐスーパー戦隊の戦士になりたいなどと夢想するようになっていきました。
そんな自分の殻に閉じこもった鎧のことを、すぐに転校して居なくなってしまう子だと思ってか、当初鎧が転入した幾つかの学校の先生たちは大して親身に接してくれませんでした。しかし1年生の2学期になって最初に転入した学校の担任の先生がたまたま熱心な先生で、クラスでも1人で塞ぎこんだ風の鎧を見て心配して鎧の両親に相談してきたのでした。
鎧の父がその話を聞いて鎧にどうしてクラスの子に話しかけないのか問い質すと、鎧はもともと転校生活に不満があったのでムッとして、自分がクラスの子に話しかけづらいのは親のせいで転校ばかりさせられているからだと言い返しました。すると、それに対して父は、不幸を他人のせいにして自分のやるべき努力をしない者はカッコ悪いと指摘しました。
これを聞いて鎧は最初は腹を立てましたが、部屋に戻って1人になってスーパー戦隊の本を読んでいるうちに考え込むようになり、最後に「星の伝説」の表紙をじっと見つめながら、確かにスーパー戦隊の戦士たちは辛いことがあっても他人のせいになどせずに自分のやれることをやって活路を見出してきた、だからカッコいいのだと思い至ったのでした。ならば、スーパー戦隊の戦士になろうと思っている自分がクラスで自分が浮いているのを親のせいにして自分の出来る努力を何もしないようなカッコ悪いことをするわけにはいかないと鎧は思いました。

それで何か凄い解決策を見つけて一気に友達を増やしてやろうと思いましたが、やはりいざ学校に行ってクラスの子に話しかけようとすると、それでもやはりどうせすぐに転校してしまうのだと思うと、悲しくなってきて話しかける気が湧いてきませんでした。
結局、自分の力では自分の転校生活そのものは変えることは出来ない。自分は無力でスーパー戦隊の戦士みたいにカッコよく勝ったりできないのだと鎧は思い知りました。でもそうしてふて腐れていると、父の言葉が思い出され、また自分がカッコ悪くなっていると感じられました。スーパー戦隊みたいにカッコよく事態を解決できないのもカッコ悪いけど、それで諦めて何もしないのは一番カッコ悪い。事態をすっきり解決出来ずカッコ悪くても、何かやっている方が一番カッコ悪いよりもまだマシだと鎧は気付きました。
一気に事態を解決できなくても、何か自分の出来ることをやっていれば、やった分だけ少しはマシになる。少しマシになっても無駄に見えるかもしれないけど、少しでも自分の状況を変えられるのなら少しだけカッコいい。もしかしたら、その積み重ねで事態を変えられるのかもしれない。
よく考えればスーパー戦隊も一気に敵を倒したわけではない。少しずつ少しずつ一生懸命戦って、その積み重ねで最後には敵を完全に倒して世界を平和にしたのです。だから、自分が学校で友達を作るために何か努力するのは、スーパー戦隊の戦いと似ていると鎧は思いました。ならば、学校で友達を作るために頑張ることは、自分がスーパー戦隊の戦士になるための最初の試練なのだと鎧は考え、今の自分に出来ることは何なのか考えました。
そして結局、とにかく笑顔で元気に話しかけることしか思いつかなかった鎧は、それを実践してみることにしました。結果は散々で、いきなり気の利いたことを言えるわけでもない鎧は皆にウザがられてしまいました。しかし、スーパー戦隊の戦士になるための試練だと思えば鎧は平気でした。
思えばこれまで鎧はスーパー戦隊の戦士になりたいと夢想しつつ、そのための努力は何もやっていませんでした。今回初めてその努力をしてみて、ウザがられて嫌な想いもしたけど、努力した分、戦士に一歩近づけたような気がして嬉しく思えました。それに、いくら失敗しても自分に出来ることをやっている限り、さほど苦痛もありませんでした。これなら何度失敗しても何度でも出来ると思い、何度でもやっているうちにきっと上手くいくと鎧は確信しました。

結局、その学校では懸命に皆に話しかけ続けた鎧は皆にウザがられたまま転校することになりましたが、それでもメゲることのなかった鎧は、次の学校でも同様に積極的にクラスメートに話しかけ、遂に友達を作ることに成功しました。
だが鎧の場合、これでゴールにはならない。どうせすぐにまた転校してしまい、その友達ともお別れすることになるからです。だが、鎧はそのお蔭で自分はまた新しい学校でイチから努力することが出来ると、嬉しく思いました。一見するとせっかく一歩前進してもまたスタート地点に戻されているように見えるが、自分の出来る努力をすることによって自分の中の何かが良くなっていくことを鎧は感じ取っていました。
その努力を何度もリセットされて繰り返すことによって、自分の中での良い変化はどんどん進んでいき、良いものがどんどん溜まっていく。そうして自分は最終的にはスーパー戦隊の戦士になるのだと鎧は、これは決して夢想のみの夢想ではなく、実感を伴って夢想しました。
そうして鎧は小学校1年生から5年生までの5年間、転校するたびにクラスの子や同学年の子、上級生や下級生にまで積極的に話しかけ、多くの子たちからウザがられましたが、それと同数ぐらいの子たちと友達となり、別の学校に転校して会うことは無くなりましたが、それでも一期一会でも友達になったのは間違いないのであり、気が付けば多くの町にそうした友達をたくさん作っていました。

それは鎧にとってはスーパー戦隊の戦士を目指す彼なりの、子供なりの方法でもあったので、もちろん鎧は学校生活と並行してスーパー戦隊の研究にも余念は無く、親にねだってスーパー戦隊の資料類は揃えていきました。親も妙にスーパー戦隊のことでは好意的で、小学生にしてはちょっとお金を使いすぎなぐらい鎧のスーパー戦隊関連の出費はかなりのものでした。
お蔭で鎧は自他ともに認めるスーパー戦隊マニアとなり、例えばジェットマンのブラックコンドルは戦いの後プッツリと消息が途絶えているとか、メガレンジャーの正体は実は諸星学園高校の生徒であったとか、かなりのマニアの間でしか知られていない怪しげな裏情報のようなものも知っている変な小学生となりました。
また、知識だけでなく、将来スーパー戦隊の戦士になるために鎧は身体を鍛えなければいけないと思い、自主的にトレーニングをするようになりました。普通なら何かの道場に通ったり運動部に入ったりするものですが、鎧の場合、転校に次ぐ転校の生活であったのでそういうわけにもいかない。そこで自分で考えてトレーニングメニューを作りましたが、その様子を見た父親がアドバイスをしてくれてトレーニングメニューを作り直してくれました。
鎧は大人の男はみんなそういうことに詳しいのだろうと特に疑問は抱かず父親の作ったトレーニングメニューをこなしていきましたが、父親の作ったメニューは実に的確で、鎧の身体は軸がしっかり鍛えられ、小学生時代に格闘技の下地がしっかりと作られたのでした。しかし一介の料理人に過ぎない父親がこのような、まるで軍隊の兵士養成所の基礎メニューのようなトレーニングメニューを作れるのは不自然なことでした。

そして鎧が小学校6年の時に父親は長い流し料理人生活を終え、新宿に店を構えて落ち着くこととなり、鎧も新宿の小学校に通い、そして最寄りの中学に入学しました。ようやく定住生活することとなった鎧は近所の空手道場にも通うようになり、父の作ったトレーニングメニューによって基礎が既に出来ていた鎧はめきめきと腕を上げ、中学2年で黒帯となり、中学3年の時には幾つかの大会で優勝したりもしました。
ただ、新宿に定住するようになって中学も3年間同じところに通うようになり、長く付き合う友人も出来るようになった鎧は、次第に以前ほどはスーパー戦隊に夢中ではなくなっていきました。
もともとはスーパー戦隊の戦士になりたいという遠大な目標のためにまずは目の前の苦境に立ち向かうという精神で友達作りに励んでいた鎧でしたが、気が付けば日本各地に多くの友達が出来て、今や運命は変わり、転校生活は終わりを告げてずっと同じ中学に通うようになり、すっかり社交的になった鎧は多くの友達に囲まれる生活となりました。
もしかしたら自分はこうした今の幸せな自分になるために努力してきたのかもしれないと鎧は思うようになりました。スーパー戦隊の戦士になりたいというのは、いかにも子供らしい単なるきっかけに過ぎず、本当の自分のゴールはこういう当たり前の中学校生活、そしてそこから続く普通の大人の生活なのかもしれないと思えてきました。
そもそもスーパー戦隊は鎧が6歳の時に一度現れただけで、結局その後は一度も姿を現さず、中学校の友人たちはみんな、スーパー戦隊など本当に居るのかどうか分からない伝説だと言いました。鎧は今でもゴーオンジャーやシンケンジャーというスーパー戦隊なのではないかと噂されている戦隊がいるのだと反論しましたが、それらの戦隊を鎧も友人たちも実際見たことはなく、それらの戦隊が伝説のスーパー戦隊の仲間だというのも根拠のない噂だと指摘されても、鎧は言い返せませんでした。
鎧が言い返せなかったのは言い負かされたからではなく、あまり必死で反論しても皆の中で自分だけ浮いてしまうことに自覚的だったからでした。中学に入ってお別れせずにずっと一緒にいる友人がたくさん出来た鎧は、せっかく出来たその友人たちの中であまりに戦隊マニアぶりを発揮して浮いてしまうことを無意識に避けるようになっていました。それで以前よりは戦隊のことをあまり話題にしなくなった鎧は、自然にスーパー戦隊への想いが薄らいでいくようになり、確かに友人たちの言うようにスーパー戦隊は本当は実在しないのかもしれないとまで思うようになってきました。
あの「スーパー戦隊の戦士になりたい」という想いは、自分が子供の頃、転校生活の中で友達作りの勇気を持ち続けるべく、自分を奮い立たせるために心の中に作り上げた幻想であったのかもしれない。ならば、もうその幻想の役目は終わったのではないかと鎧は思うようになっていました。そのような幻想をいつまでも引きずっていると、真面目に自分の現実的な将来を考える妨げになるのではないかとも思えてきていました。

ところが鎧の高校生活最初の夏に突然ザンギャックの地球侵略騒動が起こり、スーパー戦隊がザンギャックから地球を守るために戦うということが発表されたのです。実在しないのではないかと思い始めていたスーパー戦隊が確かに実在すると知り、幼い頃の夢が甦ったように感じて鎧は興奮し、最近もうあまり見返さなくなっていたスーパー戦隊に関する自分の手持ちの本なども読み返したくなりましたが、鎧がスーパー戦隊の参戦の情報を聞いたのは山梨の疎開先で、それらの本は新宿の自宅にあったので読むことは出来ませんでした。
そんな時、自宅の父親から姉夫婦を迎えに来てほしいと連絡があり、鎧はついでに自宅のスーパー戦隊の本で目ぼしいものも回収しようと思い、張り切って東京に向かいましたが、途中で今年3歳になる姉の息子にもこの際疎開先でスーパー戦隊のことを自分が教えてやろうと思い、3歳ぐらいという年齢ならば自分が4歳の時に買ってもらったあの「星の伝説」が入門書に最適なので、あの絵本も持っていくことにしようと思いました。
しかしよく考えたら、12年前に買ったあの本はもうさすがにボロボロになっていたので、この際新たに甥のために買ってやろうと思い、鎧は本屋に寄って新品の「星の伝説」の絵本を見つけて買いました。

0064.jpgそうして新宿に向かっていたところでザンギャック艦隊の出現に出くわし、自宅のある新宿方面が火の海になるのを見た鎧は慌てて携帯電話を取り出して、家族に連絡を試みましたが、ついさっき通話していた父親の電話も、他の家族の電話も全部通じません。父親は家族はみんな自宅に戻っていると言っていたから、あの空爆をまともに受けてしまった可能性が高い。
もうダメかもしれないと絶望し、呆然自失してしゃがみ込んでしまった鎧は傍に落していた袋から飛び出していた買ったばかりの「星の伝説」を無意識に手にとって握り締め、表紙の絵を見つめながら、今目の前で起きている出来事が絵本の中の作り話ならば良いのにと切に思いました。そうしているうちに新宿方面を火の海にしたザンギャック艦の群れは地上を砲撃しながら移動してきて、鎧の居る場所の上空まで達し、そこにもビーム砲を浴びせようとしましたが、人々が逃げ惑う中、鎧は呆然と絵本を見つめたままへたり込んだままでした。
ぼんやり頭上のザンギャック艦を見上げて、このまま自分も死ぬのかと鎧が思った瞬間、何かが飛んできてザンギャック艦を吹っ飛ばしました。それはギンガマンの鋼星獣ギガフェニックスでありました。ギガフェニックスは高速で飛びながらザンギャック艦を次々と撃ち落とし、その間に地上には変身したギンガマン達が飛び出してきて、人々を避難させ始めました。
鎧は目に前に絵本と同じギンガマンが飛び出してきたので驚いて我に返り、他の人々と一緒に少し離れた場所に誘導され、そこからギンガマンが敵の方に駆け出していくのを見送りました。そこには星獣たちもやって来て、大転生して銀星獣となった星獣に乗り込んだギンガマン達は星獣合体して超装光ギンガイオーで、そして黒騎士ヒュウガはブルタウラスで戦いました。
ブルタウラスの野牛鋭断とギガフェニックスのギガニックブーメランでズタズタに寸断されたザンギャック艦隊はギンガイオーの怒りのギンガ大火炎で焼き尽くされ全滅しましたが、ギンガマン達は休む間もなく更に上空の敵艦隊を迎撃するために、上空からやって来た母艦ギガバイタスに乗って、上空の敵艦隊目がけて飛び去っていったのでした。
その激闘を呆然と見つめていた鎧は、ギンガマンは絵本の中の作り話ではなかったことを改めて実感しました。ギンガマンは、いやスーパー戦隊は確かに実在して地球の人々を守るために必死で戦っている。それは作り話などではなく、それが確かな現実でした。
ならば、かつて子供の頃スーパー戦隊の戦士を目指して困難に挑んでいた自分が、今こうして現実の苦しみや悲しみに負けて立ち止まって何もしないわけにはいかない。たとえ家族や帰る場所を失っても、どんなに悲しくても、今は自分は自分の出来ることをやって、スーパー戦隊のように人々を守るために戦っていかなければいけない。そう思った鎧は立ち上がり、とにかくまずは家族の安否を確かめ、その現実を受け止めるために新宿へ向かおうと心に決め、「星の伝説」の絵本を握りしめたまま前に向けて歩き始めたのでした。

こうしてザンギャック軍による地球攻撃が始まり、そして1週間が経ちました。ザンギャック軍の司令官は当初はこの大兵力をもってすれば数日で地球を制圧できると思っていましたが、その予定は大きく狂っていました。
まず宇宙戦艦の大艦隊による空爆で地上の敵軍の抵抗力を奪い、その後、地上軍を投入して制圧するというのがザンギャック軍の侵略作戦の大まかな流れです。今回最初は全軍の1割の先遣隊だけでそれが達成出来ると甘く見て、先遣隊を全滅させられてしまい、ザンギャック軍司令官はこの失敗に慌てて全軍の8割を一気に繰り出して短期間でカタをつけようとしました。だが地球側の抵抗は激しく、ザンギャック艦隊には予想以上の被害が出ており、逆に地球側の戦力の消耗はザンギャックが予想したほどではなく、空爆の後で無抵抗となった地上に一気に地上軍投入というわけにはいきませんでした。
これは地球側の防衛軍の実質的指揮官であったゴレンジャーの海城剛が宇宙警察のデカレンジャーのメンバーからザンギャック軍の戦法をあらかじめ聞いておいて、空爆によって地上に有る地球側の迎撃戦力に被害があまり出ないようにあらかじめ備えをしておいたことも大きな要因でした。
そして、戦ってみて分かったことは、ザンギャック側の戦艦に対しては地球側の通常の空軍戦力で互角に戦うことは十分に可能であり、スーパー戦隊の保有する巨大メカや巨大ロボであればちょっとした規模の艦隊でも撃破することは出来ることが分かりました。これはザンギャック軍が皇帝への軍不満分子の反逆を警戒して個々の戦艦の性能をあまり向上させないことにしていたからでした。
だが、海城はこれで勝利の確信を得たのかというと、さすがにそこまで能天気ではありませんでした。そもそも、これまでにもザンギャック軍の戦法を熟知した上で迎え撃った星は幾らでもあったであろうし、この程度の性能のザンギャック戦艦と互角以上に戦うことの出来る戦力を持った星もあったことでしょう。それでもザンギャックはあらゆる星を制圧して宇宙の覇者となった。それは圧倒的な数の力によるのだと海城は痛感していました。

0062.jpg初日の戦闘でも最初の先遣隊を全滅させた後に繰り出してきた敵の本隊の数があまりに多くて防ぎきれず、世界中で地上の人々に大きな被害を出してしまいました。あの時は先遣隊を全滅させたのを敵全軍を壊滅させたと勘違いした人々がシェルターから出て自宅などに戻ってしまっていたので大きな被害が出たのですが、それが勘違いだと分かっていた海城たちも必死でそれらの人々をシェルターに戻すことは怠っていました。
現れた先遣隊がかなり多かったので、敵には大損害を与えたと思っていたし、敵の繰り出してくる新手も地球の戦力で防ぎきることが出来るのではないかという甘い見通しが頭を一瞬支配したのです。ところが敵の戦力は当初の想像を遥かに超える規模であり、その結果、人々に大きな被害を出してしまった。
その後は海城たちも、それから人々の方も当然、気を引き締めてかかるようになり、人々はシェルターに籠って連日の空爆を耐え忍んでいます。しかし耐えているだけで敵が諦めて帰ってくれるわけではない。このままずっと空爆され続けているわけにもいかない。ザンギャック軍を追い払わない限り地球に未来は無いのです。
敵の想定していなかった持久戦に持ち込み、しかも局地戦では地球側が優位に戦いを進めていて、攻める側のザンギャック軍の方が被害は大きい。普通はこういう場合、本拠地で戦う地球側の方に地の利があり、宇宙の果てから遠征してきているザンギャック側の方が窮してくるはずです。しかし、ザンギャック軍の場合、数が多すぎるので局地戦で多少被害を出してもお構いなしにどんどん押し込んでくる。
被害が甚大になれば撤退するのであろうが、全軍の数が多すぎるので撤退を考えるような被害率に達するのがだいぶ先のことなのです。その間に数に任せてザンギャック軍は攻め込んできて、逆に地球側はあまりに敵の数が多く、しかも敵も警戒してくるようになったので最初に先遣隊を一気に殲滅した時のような大戦果は上げる余裕は無く、こちらの数が少ないので善戦しながらも少しずつ出していく被害が全軍の中では意外に深刻なダメージとなって積み重なっていき、変わらず押し込んでくるザンギャック軍を防ぐのがどんどん苦しくなっていく。
そうして綻びが生じて、一旦何処かの戦線を突破されると、そこから傷口は広がってますますザンギャック側の有利に傾いていく。そうして遂には地球側は数の圧力に抗しきれずに全軍総崩れとなり勝負は決する。海城にはそういう展開が読めてきました。

実際、まだまだ局地戦で各スーパー戦隊は敵軍に対して優勢を保っていますが、スーパー戦隊だけでザンギャック全軍を防ぎきれるものではない。ザンギャック軍を撤退させるほどの被害を与えるためには世界中の通常軍の協力も不可欠なのですが、その通常軍はザンギャック軍相手に奮戦しつつも、開戦1週間経つとさすがにかなり被害を出し始めていました。
一部の戦線では綻びも生じてザンギャック側が地上軍を投下してきて地上戦の展開ともなり、スーパー戦隊も幾つか出動して撃退しました。そうした局地的、散発的な地上戦の結果、ザンギャックの地上軍の兵達の多くは歴代悪の組織の戦闘員程度の戦闘力であり、スーパー戦隊ならば容易に蹴散らせるし、一般人でも強い者ならば抵抗可能な程度であることが分かりました。
ただ完全武装しており、なんといってもその数が異様に多いので、ザンギャックが地上戦に本格的に大兵力を投入してくることが可能になると、地球側としても一般人を守りながらこれに対抗していくのはかなり困難と思われました。
0065.jpgつまり地球側が疲弊して敵の航空戦力を防ぎきれなくなった時、一気に敵の大規模地上侵攻が始まり、勝負が決してしまう。おそらく、このままいけば開戦から1ヶ月で地球側の通常軍が疲弊してほぼ無効化されてしまい、その後はスーパー戦隊だけが必死で戦って食い止めても1ヶ月で疲弊して戦力がダウンし、そこから敵の大規模地上侵攻が始まるだろう。

つまりその2ヶ月の間にザンギャック軍を撤退させないといけないのだが、たった2ヶ月であのとんでもない数のザンギャック軍に撤退を考慮させるほどの被害を与えられるとは思えない。普通はこうなると降伏も選択肢に入ってきますが、デカレンジャーから聞いた話では、ザンギャック軍は降伏しても相手の星を徹底的に蹂躙破壊するらしいので、降伏はあまり意味は無さそうでした。
敵をに大被害を与えて撤退させることも難しく、降伏も出来ないとなれば、1つだけ敵を撤退させる手段は無いこともない。それは敵の司令部を潰すことでした。司令部を潰せば膨大な敵軍を統率出来なくなり、敵は仕方なく撤退する可能性はありました。
だが、敵の司令部が膨大な軍勢の中の何処にあるのか分からない。司令部のある本陣は地球の大気圏内には攻め込んできておらず、宇宙空間に潜んでいるのかもしれないが、よほどひっそりとその存在を隠匿しているのか、その位置はレーダーや監視衛星などでも捕捉出来ていません。
そうなれば、今はとにかく敵本陣の探索はそれはそれで進めつつ、後の大規模地上戦も見据えて、ザンギャック軍に出来るだけ多くの損害を出して、その兵力を削いでいくしかないと海城は考えています。そのためにはスーパー戦隊の戦力は必須となります。

開戦後1週間現在、海城の指揮下で稼働しているスーパー戦隊は30個で、既にフル稼働状態で余裕は無い状態でした。スーパー戦隊は全部で34個であり、海城指揮下の30戦隊の他に4戦隊あります。そのうちゴーオンジャーはこの世界に不在、そして戦いの合間に定期的に情報収集にあたってもらっているカクレンジャーとハリケンジャーの報告によれば、シンケンジャーとゴセイジャーは独自の立場で各地を転戦してザンギャック軍と戦っているとのことでした。このシンケンジャーとゴセイジャーについては海城は現在静観する構えです。
すると残るはゲキレンジャーですが、ゲキレンジャーのメンバーはよほど人里離れた秘境で修行していたのか、スクラッチ関係者も結局ザンギャックとの開戦まで彼らを発見することは出来ませんでした。ザンギャック軍の攻撃が始まった時にゲキレンジャーのメンバーは初めて異変に気付いたようで、慌ててスクラッチに連絡してきて事情を全て聞き、スーパー戦隊に合流すべく数日で東京に戻ってきました。
ところがゲキレッドの漢堂ジャンだけが何故か戻ってきていませんでした。ジャンも確かに開戦の日に急いで東京に戻ると連絡してきたはずなのですが、その後数日経っても戻ってこず、連絡もありません。他のゲキレンジャーのメンバーの4人はジャンが戻ってくるのを数日待っていましたが、何時までも待っていられないということで先日からボウケンジャーに合流してジャン抜きで戦い始めました。いったい漢堂ジャンは何処に行ったのか、もしかしたら何か異変に巻き込まれたのかと、海城は不思議に思うばかりでした。

そのジャンは、なんとその頃、地球のすぐ外の宇宙空間にあるザンギャック軍の本陣にいました。ジャンは開戦の日、山奥で修行していたところ上空に出現したザンギャック艦隊を見て驚いて東京のスクラッチに連絡し、すぐに戻ると言って出発したのですが、数日後、途中の奥地の小さな村でザンギャック艦が村人たちを浚っているのを目撃し、ザンギャック艦から伸びたアームで浚われそうになっている子供を助けるために飛び込んだところ、子供を助けた代わりにジャンがアームに捕らわれてしまって、そのままザンギャック艦の中の牢屋に自動収容されてしまったのでした。
ザンギャック軍は全軍の8割を繰り出して都市部上空で大規模な戦闘を繰り広げる一方で、残った1割の本陣の直属の小部隊がこっそりと防備の手薄な田舎の方で適当に住民を浚って、地球に関する情報を得ようとしていたようです。ジャンはたまたまそれに出くわして、つい不覚をとって浚われてしまったのでした。
しかしザンギャック兵たちは自軍の兵員がひしめく戦艦内で捕らわれた地球の田舎の少数の一般人たちが抵抗することなど出来ないと甘く見て、捕えた人々を拘束してもいませんでした。それで尋問するために捕えた人達を牢から出した途端、ジャンが大暴れを開始し、ゲキレッドに変身してザンギャック兵達を叩きのめし、あっという間にその艦を制圧してしまいました。
それで本陣は一時混乱に陥りましたが、ジャンや田舎の村人たちは戦艦の操縦など出来なかったのでその場を離脱は出来ず、横付けした他の艦からどんどん兵員が送り込まれてきて、ジャンは数日間奮戦しましたが、村人たちを守りながらの多勢に無勢の戦いで押し込まれ、遂には村人たちを捕らわれてしまい、その命を盾に脅されて投降しました。これがちょうど開戦後1週間の日でした。

ザンギャック側がジャンをあえて殺さなかったのは、ジャンの戦いぶりを見て只者ではないと気付いた司令官が、何か有益な情報を聞きだせると判断したからでした。それで旗艦に連行されたジャンは司令官に直々の尋問を受けることとなりました。
ザンギャック軍の司令官はワルズ・ギルに取り入って出世した凡庸な軍人でしたが、それでも一応は司令官を任されるほどの人物ですから愚昧というほどでもない。高貴な人物に取り入って出世できるぐらいの頭の回転の良さや小狡さはあるのですから、軽率なところはあるが、決してバカではありません。
司令官は開戦してからの地球側の予想外の激しい抵抗には何か特別な要素があると推測しており、この変身して戦うことの出来る、とんでもなく強い地球人が何かそれに関係しているのではないかと直感していました。それで司令官は随行している特殊部隊の隊長を護衛のために従えてジャンに直々に会い、直接尋問することにしたのでした。
そして司令官がジャンに何処に所属しているのか問うと、ジャンは単純なので素直にゲキレンジャーだと答え、更に司令官がそれは何なのか問うと、ジャンはスーパー戦隊の1つだと答えました。司令官はその「スーパー戦隊」というものが地球側の抵抗勢力の中心にいるのかと思い、スーパー戦隊とはどういうものなのか更にジャンに問い質しました。しかしジャンは以前に明石たちボウケンジャーや「この星の意思」からゲキレンジャーもスーパー戦隊の一員だという話を聞いたことがあるぐらいで、もともと最近までジャングルの中で暮らしていたジャンは実はスーパー戦隊のことをほとんど知りませんでした。
それでジャンは司令官の質問に全部まともに答えられず、ジャンが秘密を隠そうとしていると勘違いした司令官は何としてもスーパー戦隊の秘密をジャンから探り出してやろうとムキになり、尋問用の部屋の監視機器がジャンの首から下げた金色の玉から尋常でないエネルギー反応が出ていることを感知したので、その玉を調べればスーパー戦隊の秘密を暴くことが出来ると考えました。
それで司令官が首から下げた玉を渡すように言うとジャンはこれは危険なものだからダメだと言い、ますます怪しんだ司令官は大勢の兵でジャンを押さえつけてようやく玉を奪い、必死で制止するジャンを無視して玉を分析するため様々な波長の光線に晒しました。
ところがその玉はジャン達がかつて世界を滅ぼそうとした不死の怪物である無限龍ロンを封じ込めた慟哭丸であり、無茶な検査をした結果、ザンギャックの旗艦の中で慟哭丸からロンが復活してしまったのでした。
ロンは世界を滅ぼす手始めに封印されていた恨みを晴らすためにジャンを自分の手で殺そうとしますが、司令官をはじめとしたザンギャック兵達はいきなり出現した謎の人物を怪しみ銃を向け、ロンが包囲した兵達を押しのけてジャンの居場所に行こうとしたので兵達は発砲し、怒ったロンはザンギャック兵達に襲い掛かり、ザンギャックの旗艦内は大混乱に陥ってしまいました。
この混乱に乗じてジャンは捕らわれていた他の人々と共に旗艦を脱出し、他の艦に移ってそこを乗っ取り、乗員を脅して本陣から脱出を試みました。そのジャンを追って司令官も旗艦を脱出して別の艦で追いすがり、ロンは旗艦を粉々にして無限龍の巨大な本体を現し、ジャンの行方を探して膨大な戦艦で構成される本陣内で大暴れし始めたのでした。

宇宙空間のザンギャック本陣で突如起こったこの大騒動は地上でも感知されるところとなり、海城はザンギャックの本陣はここではないかと直感しました。そして、その画像に映し出された宇宙空間で暴れる巨大な龍の姿に見覚えがあることに気付いた海城はゲキレンジャーのメンバーにそれを見せました。すると真っ青になった宇崎ランたちゲキレンジャーのメンバーは、これは無限龍であり、これが出現しているということは、そこにジャンも居るはずだと言うのでした。
どうしてそんな場所にジャンがいるのか分からないが、とにかく永遠の時を生きる不死の龍である無限龍をこのままにしておけば非常に危険であり、世界を滅ぼそうとしてくるに違いないと言うゲキレンジャーの面々の言葉を聞いて、海城は至急宇宙空間のザンギャック本陣に突っ込んでジャンと合流して無限龍を封印するようゲキレンジャーに命じました。
ただ、無限龍だけでも大変な強敵であるのに加えて、膨大な艦船で構成される敵の本陣に突っ込むわけですからゲキレンジャーだけでは無謀というもので、海城は明石にボウケンジャーもゲキレンジャーの任務のサポートのために同行するよう命じ、更に無限龍の暴走による混乱に乗じて一気に敵の司令部を叩き潰す千載一遇のチャンスと見て、別の戦隊も一緒に行かせようと考えました。
だが他の戦隊も全部、ザンギャックの攻撃軍に対応するので手一杯で、余剰の戦力はありませんでした。それでもこの機会を逃せないと思った海城は、戦隊側の司令部の最も近いエリアで敵と応戦中のデカレンジャーとマジレンジャーにボウケンジャーとゲキレンジャーと共に敵の本陣へ突っ込み司令部を叩き潰すよう命じ、代わりに2戦隊の応戦していたエリアは自らゴレンジャーを率いて打って出て死守すると決定したのでした。
これを無茶だと思った明石はいっそシンケンジャーとゴセイジャーに応援を頼もうと進言しましたが、海城はこれを退けました。いちいち問答している時間も無かったので明石はこれに従い、すぐにゲキレンジャー、デカレンジャー、マジレンジャーと共に出撃しましたが、勝手にハリケンジャーとカクレンジャーに依頼して自筆の手紙をシンケンジャーとゴセイジャーのもとに届けてもらい、シンケンジャーとゴセイジャーに今回に限り特別にゴレンジャーの応援をしてほしいと依頼したのでした。

そうして4戦隊は大気圏を飛び出し、宇宙空間に出て、無限龍が暴れているザンギャック本陣に到着すると、そこは無限龍によって大混乱となっており、一方、無限龍もさすがに膨大なザンギャック艦からの攻撃を受けて多少弱っていました。しかしゲキレンジャーの面々は完全体で復活した無限龍は想像以上に手強く、まずジャンを見つけてゲキレンジャーが5人揃わないことには完全な封印が出来ないと言います。
それに、周囲には陣形が混乱しているとはいえザンギャック艦隊がまだまだ多く健在であり、4戦隊は無限龍だけ相手していればいいというわけではない。デカレンジャーとマジレンジャーはザンギャック艦隊に突っ込んでいき、司令部のある艦を見つけ出して潰すことを目指すこととしました。
そしてジャンがいないため搭乗してくるものがサイダイオーだけであったゲキレンジャーはサイダイオーで宇宙空間まで来ていましたが、そのままサイダイオーでジャンの居場所を探し、ボウケンジャーはザンギャック艦と戦いながら無限龍の動向を観察することとしました。
まだ無限龍はジャンを追いかけて暴れ回っており、ジャンはまだ生きてこの艦隊内を逃げ続けているようでした。お蔭で無限龍によってザンギャック艦隊は大損害を受けており、無限龍もダメージを受けている。更にデカレンジャーとマジレンジャーの攻撃もあってザンギャックの本陣はかなり崩れてきています。
だが、それでもザンギャック本陣を潰すほどではない。この場に残存したザンギャック軍だけでは無限龍を倒すことは出来ないであろうし、無限龍もザンギャック艦隊を潰すことが目的ではない。ならばしばらくこの状況が続いた後、ザンギャック艦隊は無限龍から離れるであろうし、無限龍もそれを追いかけはしないであろう。
ジャンが艦隊に残っていれば無限龍は追っていくかもしれないが、おそらく間もなくサイダイオーの姿を見つけてジャンはこっちに合流してくるはずです。そうなれば無限龍の攻撃はどうせこちらに向いてくるので、このままいけばザンギャック本陣は全滅はせずに残存し、司令部も残る可能性がある。同時に無限龍の攻撃の矛先が4戦隊の方に向くので、4戦隊はザンギャック本陣を追うことも出来なくなる。
おそらく4戦隊で戦ってゲキレンジャーが全員揃った状態であれば無限龍を封印することには成功するであろうが、その間にザンギャック司令部には逃げられてしまう。ならばザンギャック軍と交戦しながら無限龍を封印し、同時にザンギャック司令部および本陣を叩き潰すことが出来れば万事OKです。ただ、そんなことは普通に考えれば不可能でした。しかし明石はそれを可能にする可能性のある切り札を持ってきていました。
ただ、それを試すためにはデカレンジャーとマジレンジャーがザンギャック艦の攻撃を持ち堪えている間にゲキレンジャーがジャンを早く発見してくれる必要がありました。明石はそのタイミングをじっと待っていたのでした。
そして、ザンギャック艦の乗員たちを脅して無限龍から必死で逃げ回っていたジャンは遂にサイダイオーの姿を発見し、ゲキレンジャーと合流しましたが、そこに追いすがって来た敵司令部の移乗した艦が突っ込んできて、ジャンと戦闘に突入しました。それを見てサイダイオーからジャンの艦に移ったゲキレンジャーは白兵戦で敵司令部を壊滅させ、激激ビースト砲で敵司令官を倒したのでした。
そこに急いでやって来たボウケンジャーはジャンと一緒に逃げていた人々を収容し、明石はそこにデカレンジャーとマジレンジャーも呼び寄せ、ザンギャック艦の攻撃を食い止めながら無限龍に話しかけました。明石が無限龍に問いかけた言葉は「生命の樹の実を食べたのか?」という質問でした。その上で明石は「ここに知恵の樹の実がある」と言って怪しく光る果実のような形の物体を取り出して無限龍に示して見せました。それを見て無限龍が酷く動揺するのを見て、明石はやはり予想通りだと思ったのでした。

明石は無限龍の画像を地上で見て、ラン達から無限龍が永遠の時を生きる龍だと聞かされた時、これはヘブライの神話に出てくる悪魔、つまりエデンの園の神話に登場する悪魔なのではなかろうかと考えたのです。といっても明石はその神話を実話だと信じていたわけではなく、この神話を生んだある太古の出来事にこの無限龍が関わっていたのではないかと推測しただけのことです。
それは明石たちが数年前に見つけた「知恵の樹の実」という名のハザードレベルが最高クラスのプレシャスに関係する言い伝えでした。このプレシャスの発見された超古代の遺跡の碑文などを解読した結果、エデンの園の神話と同じ「生命の樹の実」と「知恵の樹の実」という名のプレシャスがペアとなって存在しており、生命の樹の実には巨大な不死のエネルギーが、知恵の樹の実には巨大な死のエネルギーが込められているという。
何のためにそんな2つのプレシャスが作り出されたのかはよく分からず、それがどのようにしてヘブライの神話のモチーフとなったのかもよく分かりませんでしたが、とにかく、もしこの知恵の樹の実が暴走すれば止める手段も分からない膨大な死のエネルギーが溢れだすのであり、極めて危険なプレシャスであることは間違いないので、明石達はサージェスのプレシャス保管庫に厳重に保管することにしました。
しかし不可解なのは、この「知恵の樹の実」と対になるはずの「生命の樹の実」がその場に無かったことでした。何者かが「生命の樹の実」を持ち去ったようなのです。だとすれば、その者は不死の存在となっているのかもしれないと明石は推測していました。
そこに今回、まるでヘブライ神話の悪魔のような姿をした不死の龍が現れたと知り、明石はこの無限龍こそが太古において「生命の樹の実」を持ち去った者なのかもしれないと思いました。ならば、あのあまりに危険すぎるので今回もさすがに使用は無理かと思っていた「知恵の樹の実」がもしかしたら使えるかもしれないと思い、明石はこの場に持ってきていたのです。

そして無限龍に生命の樹の実を喰ったのかと質問をぶつけて知恵の樹の実を見せたら動揺したので、どうやら無限龍は生命の樹の実を喰ったために不死の呪いにかかってしまい永遠の生き地獄を味わうようになったのだと明石は確信しました。永遠の生の地獄のような退屈を紛らわすために無限龍は世界を滅ぼそうとしているが、おそらく無限龍の真の最高の望みは永遠の生に終止符を打つことであり、それを実現することが出来る可能性があるのは「生命の樹の実」と対になる「知恵の樹の実」だけであろう。
「知恵の樹の実」を喰らって体内で暴走させれば「生命の樹の実」の呪いを無効化させて死ぬことが出来るかもしれない。そのことは無限龍は知っているはずです。ただ、おそらく何者かが無限龍が「知恵の樹の実」を手に入れることが出来ないように隠したのであろうと思われ、無限龍は「知恵の樹の実」を手に入れられず、永遠の生に苦しみ続けてきた。それを明石たちが手に入れていたのであり、今その「知恵の樹の実」を無限龍の前に差し出したのでした。
だからもはや細かい説明など不要で、明石はその「知恵の樹の実」を無限龍目がけて射出し、無限龍は永遠の生の苦しみから解放されたいと思い、夢中でそれに飛びついて呑み込み、体内で暴走させました。それを見て明石の合図で瞬時に4戦隊は一斉に退避してザンギャック本陣から距離を取りました。その瞬間、無限龍の身体から暴走した死のエネルギーが溢れ出し、ザンギャック本陣を呑み込んでいき、ザンギャックの本陣はほんの少数の脱出成功艦を除いては、ほぼ壊滅したのでした。
ただ、無限龍とザンギャック本陣を呑み込んだ死のエネルギーは止めどなく暴走して地球をも呑み込んでしまうのではないかと危惧されましたが、意外にもそうはならず、死のエネルギーは収縮していき、ザンギャック艦隊の墓場と化した宇宙空間の真ん中に弱って動けなくなった無限龍が浮かんでいたのでした。
どうやら無限龍の体内の生命の樹の実の不死のエネルギーが一旦暴走した知恵の樹の実の死のエネルギーを最終的には抑え込んだようです。そしてこれは実は最初から明石の計算通りでした。その原理は実に単純で、対になっている2つのプレシャスの力は同等であるはずだと見た明石が、その遺跡で発掘した、2つの樹の実をカットすることの出来るプレシャスである特製のナイフを用いて、知恵の樹の実を少しカットして小さくしていたのです。
フルサイズならば同等の力をもっているのならば、大きさが違えば大きいサイズのパワーの方が勝るのは当然で、慌てて大きさの違いに気付かず呑み込んだ無限龍の体内で、フルサイズの生命の樹の実の不死のパワーは結局は小振りの知恵の樹の実の死のパワーを抑え込み、死のエネルギーはザンギャック本陣を滅した段階で力を失い、無限龍は死のエネルギーによって当分回復不能なダメージは受けたものの、その不死の呪いは解けることはなかったのでした。こうして4戦隊はザンギャック軍の本陣を壊滅させ、ゲキレンジャーは弱って動けなくなった無限龍を再び慟哭丸に封印したのでした。

0067.jpgさて、宇宙空間でそのようなことが起こっていたとは地球側もザンギャック側も露知らず、大気圏内の地球上空ではザンギャック全軍中の8割にあたる攻撃軍と地球側の防衛軍の熾烈な戦いが繰り広げられていました。日本の関東地方上空でもザンギャック艦隊が押し寄せ、本来はここを今回担当するはずだったデカレンジャーとマジレンジャーを宇宙に行かせたため、代わりに海城率いるゴレンジャーがこれに立ち向かっていました。
ゴレンジャーは奮戦しましたが、もともと2戦隊でカバーする予定だったエリアですから、どうしても防ぎきれないところもあり、一部地域で地上軍を投下されてしまい、ザンギャック地上軍が侵攻を開始してしまいました。そこでゴレンジャーはバリドリーンでの空中戦を新命と大岩に任せて、海城とペギーと明日香は地上に降り、手分けしてザンギャック地上軍と戦闘を開始しました。

この地上に降下したザンギャック地上軍の中に特殊部隊員シド・バミックの姿もありました。シドは司令部で特殊部隊長や他の特殊部隊員らと共に司令官の身辺警護にあたるのが当面の任務でしたが、開戦以降、ザンギャック軍がやたらと市街地に無差別空爆を繰り返すのを見て驚いていました。
これまで裏仕事専門で大きな戦場に出るのはこれが初めてであったシドは、ザンギャック軍が正義の戦士の集団であるという自分の思い込みとはズレのある目の前の光景に戸惑いましたが、彼の上司である特殊部隊長など周囲の者たちはシドの戦う意義がザンギャック兵のように人々を守る正義のヒーローとなることであるということなどは知りませんでしたので、この戸惑いがシドにとって重大な問題であることが理解出来ませんでした。
単にシドは初めての大規模な戦場に驚いているのだろうと思った特殊部隊長は、シドが一度前線に視察に行きたいと言うのも気軽に許可しました。それでちょうどこの日、シドは司令部を離れて前線に出ており、司令部を襲った無限龍の惨劇に遭うことは免れたのです。

シドはこの戦場の前線で実際に何が行われているのか自分の目で確かめるために前線に出てきたわけですが、関東地方の上空でゴレンジャーと戦っていたシド属するザンギャック軍は隙を見つけて地上軍を投下し、シドもその地上軍に加わっていました。
ところがシドの属していた一隊の兵達は民家や商店から略奪を始め、逃げ遅れていた住民たちを襲い始めたのでした。驚いたシドは慌てて兵達を止めようとしましたが、兵達はシドの言うことを全く聞きません。シドは自分がその隊の指揮官ではなく随行員でしかないので兵達は命令を聞かないのだと思い、隊長のスゴーミンに兵達の蛮行を止めるよう求めましたが、隊長も階級が上のシドの言うことを聞きません。
どうして自分の意見を無視するのかとシドが問い質すと、これは司令官の命令でやっていることであり、ザンギャック軍はいつもこうして征服地の住民たちを屈服させているのだと隊長はどうしてこんなことを聞いてくるのかと不思議そうに答えました。
シドは驚き混乱しましたが、それでもかつて自分やジョーを助けてくれたザンギャック軍の正義を信じようとしたシドは、この隊長が独断で略奪をしているクセに司令官の命令だなどと嘘をついて自分を騙そうとしているのだと考え、不心得者の隊長を処断せねばいけないと決意しました。そして頭に血の上ったシドはいきなり隊長を斬り倒し、近くで略奪している兵達を斬りまくっていき、そこにザンギャック隊を追って海城がやって来たのでした。

海城は略奪を働いているザンギャック兵達をザンギャックの士官風の男が略奪を制止しながら斬りまくっているのを見て一瞬驚きましたが、とにかくザンギャック軍を倒すべく、レッドビュートの先につけた鉄球を振り回して一気に敵兵たちを倒しました。シドは普段なら避けることも出来たのでしょうが、やや錯乱状態であったので避けるのが遅れて鉄球を喰らい、装着していた装甲が破壊されて生身の状態となってしまいました。
気が付けば味方は全滅し、無防備な状態を1人で敵の前に晒されることとなってしまったシドは焦りました。敵は1人ですが、一瞬で隊を全滅させた達人であるようで、今の状態の自分が簡単に勝てるような相手ではないとシドは感じました。ところがそこにザンギャックの新手の部隊がやって来て、更には上空からザンギャック艦も迫ってきました。やはりゴレンジャーだけでは膨大なザンギャック軍をなかなか全部阻止出来ず、バリドリーンが撃ち漏らしたザンギャック艦が低空に侵入して新たな地上軍を投下してきたのでした。
0066.jpgこれで一気に形勢逆転し、海城は敵に包囲される形となり、絶体絶命となります。逆にシドはこれで助かったと安堵しました。しかし次の瞬間、上空のザンギャック艦に向かって空飛ぶ巨大ロボが突っ込んできて粉砕し、同時に地上のザンギャック部隊にも何者かが斬りこんできて大混乱となったのです。
シドも驚愕しましたが、海城もこれは予想外であったようで、驚いて見てみると、上空で敵艦を撃墜した後、更に上空に飛んでいきバリドリーンと共に敵艦隊に攻撃を開始したのはゴセイジャーの天装巨人であるスカイックゴセイグレートであり、更に他にもミスティックデータスハイパーも上空の敵艦隊に突入しており、地上からはゴセイグランドが上空の敵艦隊を攻撃していました。そして一方、地上のザンギャック部隊に各方面から一斉に斬りこんできたのはシンケンジャーの7人で、これによって敵部隊は総崩れとなり、海城は危機を脱しました。
シンケンジャーとゴセイジャーは今回だけは特別にゴレンジャーを支援してほしいという明石からの報せを受け取り、どうしようか一瞬迷いましたが、以前にわざわざ自分達のもとに出向いてくれた上で自分達の身勝手な言い分を聞いてくれた明石への義理を果たすため、今回はとにかく明石の依頼に応えてゴレンジャーの支援のために駆けつけたのでした。

これで再び形勢は逆転し、シドは味方軍が総崩れになり、周囲が敵だらけとなる中で、たった1人で海城と対峙する状況となってしまいました。これはもはや助からないとシドが観念しかけた時、海城はどうしてさっき味方の兵を斬っていたのかとシドに質問してきました。
シドは海城の意外な言葉に一瞬戸惑いましたが、勝手に略奪行為を行った不心得者の兵達を処断していただけだと答えます。それを聞いて海城は首を傾げ、ザンギャック兵は何処でも皆あのように略奪を働いているのだが、全員が不心得者の集団なのかと問いかけました。シドは嘘を言うなと激昂しますが、海城は冷静に嘘ではないと言い、どうしてそこまでザンギャック軍を信じるのかシドに尋ねました。
それに対してシドがザンギャック軍は正義だからだと答えたのを受けて、海城は、ならばそれを証明してみせろと言って、いきなり変身を解いたのでした。その変身を解いた海城の素顔が老人であることにシドは驚き、近くで戦っていたシンケンジャーの面々もいきなり戦いの場で自ら変身を解いた海城の行動に驚きました。
海城はそこらへんに落ちていた剣を拾って手に取り、シドに向かって、互いに生身の互角の条件でサシの勝負をしようと言い、唖然として海城を見るシンケンジャーの7人に向けて手を出さないよう釘を刺すと、有無を言わせずシドに襲い掛かりました。
シドは帝国一の剣の遣い手とも言われる自分がこのような老人に負けるはずがないと思い、最初はむしろ全力で戦うのを躊躇しましたが、海城の剣が予想外に鋭く、どんどん押し込まれてきたので遂には本気を出して戦い始めたのですが、それでも海城を倒すことは出来ず、むしろ押し込まれ気味となり、戸惑います。すると戦いながら海城は、剣の達人であるはずのお前がこんな老いぼれに勝てないのは持てる力を発揮出来ていないからだと言い、それは自分の正義が揺らいでいるからなのだと指摘します。

つまり、自軍を正義の軍だと信じ込んでいたシドが自軍の蛮行の事実を知りショックを受けているところに、海城はあえて自らの揺るぎない正義を拠り所として不利なサシの勝負を老人の生身で挑むことによってシドの正義の信念を更に揺さぶり、実力を封じて勝利しようとしている。このサシの勝負を見守っていたシンケンジャーの7人はそう理解しました。
しかし同時に、それは全く無意味なことであるようにも感じました。別にそんな心理的揺さぶりなどかけなくても、この敵の士官を倒すのは簡単であったはずだからです。普通に変身を解かずにそのまま攻撃していれば簡単に倒せたはずであるし、他の敵もほぼ片付いていたので何人かで攻撃すればもっと簡単に倒せた。なにも指揮官の海城が生身でサシの勝負をする必要はない。どうして海城がわざわざそんな危険を冒すのか、シンケンジャーの志葉丈瑠たちには理解不能でした。
一方、シドは海城の指摘を受けて、確かに自分がこの老人に押されているのは心の迷いによるものであるような気がしてきました。剣を交えてみて、本来の剣の実力では自分の方が上であることはシドにも分かりました。老人の方もかなりの腕であるようで、おそらく自分の方が腕では及ばないことは自覚しているはず。だが老人には何らの迷いも恐れも無いのは、自分の正義の信念に絶対的な確信があるからだとシドには感じ取れました。
だが、もし老人の正義が真実ならば、自分の正義は嘘ということになる。そうした迷いや恐れが自分の腕を委縮させ、剣を鈍らせている。そう思ったシドは、それはつまり自分が内心では老人の正義の確信を認め、自分の正義に確信を持てなくなってきているからではないのかと戸惑いました。そうした迷いを打ち消すためにムキになって剣を振るうが、そうした力みが本来の動きをますます邪魔して、シドは海城に完全に押し込まれてしまい、遂に腕と脚に深手を負って戦闘不能になってしまいました。

これで完全に勝負は決し、シドは海城に完敗しました。これで遂に死を観念したシドでしたが、ところが意外にも海城は深手で動けなくなったシドにとどめを刺さず、自分の正義が本当に真実なのかよく考えるように言うと、上空の新命に連絡して逃げ遅れた敵艦を捕獲させて救命艇とその乗員を引っ張り出させて、ザンギャック兵に怪我人のシドを運んで帰らせたのでした。
シンケンジャーの面々や、上空の戦いを終えて降りてきたゴセイジャーの面々はこの光景を見て唖然としました。どうして敵を殺さずに助けるのか、その光景だけ見ていたゴセイジャーの面々にはよく分からなかったようですが、海城とシドの戦いを見ていたシンケンジャーの面々にはなんとなく海城の考えていることがようやく分かりました。
どうも海城は敵士官であるシドがザンギャックの正義が偽りであることに気付くことに期待したようなのです。おそらくシドが本気でザンギャックこそが正義だと信じているようだと知った海城は、シドがザンギャックの悪を知りながらそれを自分に都合の良い正義という言葉で誤魔化しているわけではなく、本気で正義を求めてザンギャックに騙されているだけだと判断したようです。そして、そんなシドならば真実を知れば、ザンギャックと戦うことこそが真の正義だと気付いてくれるのではないかと海城は期待したのです。
どうして海城がシドにそこまで期待をかけようと思ったのかというと、ザンギャック軍とこうして戦うことによって、その圧倒的物量を知り、地球の自分達の力だけでザンギャックの侵略を完全に阻止することは難しいと思ったからでした。もちろん勝利を諦めたわけではなく、現在も実際に明石たちに敵本陣への突入を敢行させており、海城はこのザンギャックの侵略軍は必ず自分達の手で倒すつもりでした。
だが、この圧倒的物量を誇るザンギャック帝国が宇宙で健在である限り、目下の敵の侵略軍を倒しても、いずれまた侵略軍はやって来る。キリが無いのです。そのことは丈瑠たちもザンギャックと戦ってその圧倒的物量を知り、気付いていました。そして、その連鎖を断ち切るためには地球側で防ぐだけではなく、ザンギャック側の変化も必要だと感じていました。
といっても、このまま待っていてもザンギャック帝国が急に平和志向の国に変わるとも思えない。ザンギャック帝国内部、ザンギャック帝国に支配された宇宙の人々がザンギャックの偽りの正義の名のもとの支配を脱して、ザンギャック帝国が宇宙を侵略征服してしまうような宇宙とは違う宇宙を作る必要があるのであり、そのための働きかけが必要でした。
海城はそのことに気付いているのだと丈瑠は感じたのでした。敵士官であるシドの中にその僅かな可能性を見出したからこそ、自らの身を危険に晒してまでも、そのシドの心に強く働きかける道を海城はあえて選んだのでした。いや、シド1人の改心を促したからといって戦争の大局にさして影響は与えないのであろうが、海城は無意識にそういうことが必要だと直感して行動したのでした。
それは一見、地球防衛戦争の責任者という自らの立場を弁えない無謀な行動に見えましたが、大局的な意味での地球防衛戦争の勝利の最大のカギとなるのが、シドのような宇宙における正義の芽の成長を刺激することであるという認識に立った、まさに地球防衛戦争の大局的な勝利に向けた重要な布石を自ら打つ行動であったのだと、丈瑠は海城という男の器の大きさに心動かされました。

一方、海城は、このエリアの戦いが収束してシドを収容したザンギャックの救命艇が慌ててその場を飛び去って行くのを見送ったところで明石から連絡が入り、宇宙空間で敵の本陣を壊滅させることに成功したと聞くと、今後の方針を検討するためにゴレンジャーのメンバーと共に急ぎ本部に戻りました。
その際、海城は自らの窮地を救ってくれたシンケンジャーとゴセイジャーに言葉もかけず、無視するように立ち去ったので、残された2戦隊の面々はややショックを受けました。シドに対する武士道精神溢れる海城の対応を見ていただけに、海城は節義を弁えた立派な人物であるように思えていたので、うっかり自分達への感謝の言葉を忘れるようには到底思えませんでした。
別に感謝の言葉を目当てに戦いに来たわけではありませんでしたが、海城なら感謝の言葉は当然あるのだろうと思っていたら、意外にも冷淡な態度をとられたので、これは海城が意識的に自分達に冷淡な態度をとったのだろうと2戦隊の面々は思いました。他の戦隊が力を合わせて戦う中で自分達の都合で一緒に戦おうとしない2戦隊に対して、指揮官自ら身体を張って戦う海城はきっと良い感情は持っていないのだろう。そう思ってアラタ達ゴセイジャーは心苦しく思いながらも、護星天使の掟との板挟みに苦悩しました。
片やシンケンジャーの面々は殿である丈瑠の決断が無い限り動くことは出来ないもどかしさを感じていましたが、その丈瑠は海城の冷淡な態度に2戦隊の他のメンバーとは違う感慨を抱いていました。
丈瑠はかつて自分が外道衆との戦いに見知らぬ家臣たちを巻き込みたくないと思って家臣たちの心を自分に近づけさせないようにわざと冷淡な態度をとっていた時と、現在の海城の自分達への冷淡な態度が似ているように思えたのでした。自分も家臣を戦いに巻き込まないために自分の身体を張って戦っていた。そういう点もさっきの海城と同じだと丈瑠は気づいたのでした。
つまり、かつての自分と同じように、実は海城も迷っている。シドに対して見せた海城の全く迷いの無い態度からは一見全く窺い知ることは出来ないが、本当は内心では海城もこのザンギャックとの戦いにおいてスーパー戦隊の戦士たちの「大いなる力」を持つがゆえに内包する危険を感じており、その戦いに他のスーパー戦隊を巻き込んでもいいものかどうか、まだ迷いがあるのです。
だから自分達が参加要請を断った時、海城は更にしつこく勧誘するように指示はしなかったのであり、さっきも変に親しくなって2戦隊が情に流されて共に戦うようになることを避けるため、わざと冷淡な態度を貫いたのでしょう。今回の戦いにしても海城からの要請ではなく、あくまで明石からの要請であったのは、海城は2戦隊を呼ぶことは求めていなかったのであろうと丈瑠は推測しました。
もちろん、シンケンジャーやゴセイジャーが完全に仲間に加わってくれた方が戦いはいくらか楽になる。それは海城にも分かっています。だが、スーパー戦隊が揃えば揃うほど、巨大なパワーが発生して、それが自分達の存在をも脅かす事態となるかもしれないことには海城も気付いており、そうした事態が起きた時、自分は本当に後悔しないのであろうかと、表向きは鋼のような精神を見せる海城も実は内心まだまだ迷っていたのでした。

それは戦士たちを率いる将として、本来は相応しくない弱さでした。だが丈瑠もまた、家臣を率いる殿という立場でありながら迷いという弱さを持っており、家臣たちはそうした丈瑠の弱さも含めて信頼し、命を預けてくれていました。いや、丈瑠の弱さがあるからこそ殿として仕えたいと思ったとも言える。つまり、そうした弱さは将として実は必要なのかもしれない。同じ弱さを持つ将同士の立場で、丈瑠は海城という人物は命を預けるに足る将であると感じたのでした。
ただ、自分に家臣たちが命を預けてくれているのは、家臣たちの方も丈瑠の命を預かるだけの覚悟が定まっているからです。しかし、丈瑠は現在、自分には海城の弱さも含めてその命を預かるだけの覚悟は足りないと思えました。家臣たちの命を預かることがどうしても優先されるので、そこまで余裕が無いのです。そんな自分が海城のもとで戦う資格など無い。自分がこの戦いにおいて全ての重荷を背負いきれるようになるまで、まだ何か足りないのだと丈瑠は思い、とりあえず家臣たちと共に引き揚げることとしました。
そしてアラタ達ゴセイジャーと久しぶりに挨拶を交わし、丈瑠はアラタにいっそしばらく一緒に戦おうかと言いましたが、アラタは記憶消去の話をして、スーパー戦隊の戦士たちの記憶を消せない以上、護星天使の掟を守るために自分達はスーパー戦隊と一緒に戦うわけにはいかないと答えました。
それに対して丈瑠は、自分達は迷っているので今回こうして海城のもとに戦いに来たのだが、ゴセイジャーもそうではないのかと問いました。アラタはそれに対して、自分達は迷いは無いと答え、丈瑠はそれは嘘だろうと思ったがあえて突っ込まず、その場はシンケンジャーとゴセイジャーは別れました。

さて、敵本陣を壊滅させて司令官も倒したという明石たちからの報告を受けた海城は本部に戻ってさすがに安堵し、これでザンギャック軍が撤退してくれれば最良だと期待しました。実際、本陣と連絡がとれなくなったザンギャックの攻撃軍は混乱をきたし、全軍が一旦宇宙空間に引き揚げていきました。
そして地球から距離を置いて、月面に作っておいた補給基地に集結し、とりあえず本陣に何が起きたのか調査しましたが、本陣はほぼ全滅状態で事件の詳細はなかなか分かりませんでした。ただ、司令部のメンバーでただ1人、シドの上司の特殊部隊長だけはなんとか脱出して生き延びていたので、その証言でだいたいのことは分かりました。
地球における抵抗勢力である「スーパー戦隊」の一員を捕えて尋問していたところ、突然その持ち物から謎の怪物が出現し、本陣を蹂躙し、更にスーパー戦隊と思しき敵も突入してきて、最後は大混乱の中、その怪物が発した謎のエネルギーで本陣は壊滅してしまったとのことでした。無我夢中で逃げて気が付いた時には本陣は廃墟と化しており、兵員も皆殺しで、その怪物も姿を消していたのだと特殊部隊長は証言しました。
そして、自分の部下たちも全員死んでしまったと嘆き、攻撃軍に随行していたシド・バミックは生き残っているはずだと言い、シドの居場所を質問してきましたが、シドが重傷を負って収容されたと聞くと酷く落胆しました。
結局、シドは数ヶ月戦うことが出来ないと診断され、特殊部隊のエースであるシドは大事をとってザンギャック本星付近にある特殊部隊の基地に戻されることになり、シドは隊長に何があったのか聞かれても、油断していたら物陰から大勢に襲われて部隊は全滅し自分も重傷を負ってしまったと説明し、海城との一騎打ちの話はしませんでした。その話を正直にしてしまうと自分の忠誠が疑われてしまうのではないかと恐れ、正直に報告することは出来なかったのでした。
そうしてシドは不本意な形で地球を去り、一方、特殊部隊長をはじめザンギャック地球侵略軍の残存勢力の士官たちは月面基地からザンギャック本星に向けて「スーパー戦隊という地球人の謎の戦士たちの抵抗に手間取っている間に突然地球近くの宇宙空間に謎の怪物が出現して司令部が壊滅してしまった」とのことを報告して今後の指示を仰ぐこととしました。

この地球侵略軍からの予想外の悲報を受けて、ザンギャック本星の総司令部ではワルズ・ギル総司令官が激怒しました。司令部が壊滅したのは厳密には無限龍による混乱とスーパー戦隊の攻撃によるものであったのですが、現地軍の士官たちは戦いに敗れて司令部を潰されたと報告すればどんな厳罰を受けるか分からないと恐れ、怪物の出現による事故として報告していました。だからワルズ・ギルが現地軍に向かって激怒するほどのこともないはずなのですが、単に自分の思い通りに事が進んでいないことで癇癪を起しているだけのことでした。
その一方で総参謀長のダマラスは司令部が無くなった状態では全軍の8割が残存した地球侵略軍の大軍勢を機能的に動かすことは出来ないだろうと言い、新しい司令官を送るまで全軍待機させておくのが良いだろうと主張しました。だがワルズ・ギルはあくまで自分の立てた予定通りに作戦を進行することに固執し、大して複雑な作戦でもないのだから当初の予定通りの作戦をそのまま遂行させ、大事な案件は本星の総司令官である自分のところに連絡を寄越すようにさせ、決断は自分が下すようにすればいいと言いました。
ダマラスはそんなことをすれば臨機応変な作戦行動が出来なくなると危ぶみましたが、ワルズ・ギルは説得を聞き入れそうになく、それに確かに地球征服作戦は単純な力押し作戦であったので、このまま大軍勢で押していけば勝利は間違いないであろうとも思いました。
また、ダマラスの息のかかった特殊部隊長も生き残っており、むしろ邪魔な司令官が死んでくれてイザという時は特殊部隊長を使ってある程度は軍を動かすことも容易になりそうであったので、ダマラスはワルズ・ギルの主張に従って地球侵略軍に現地司令官不在のまま作戦継続を命じました。こうして海城たちの願いは叶わず、敵司令部を潰したにもかかわらず、ザンギャック軍による地球攻撃はこの後も続くこととなったのでした。
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posted by 通りすがりのシンケンブラウン at 21:38 | Comment(0) | 海賊戦隊ゴーカイジャー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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