2013年04月21日

海賊戦隊ゴーカイジャー妄想物語その14


0149.jpg


さて、アカレッドがナビィと共に1人と1羽だけの「赤き海賊団」を立ち上げて、改めてレンジャーキー探しの旅を開始した頃、ザンギャック帝国の支配下のとある惑星では、マーベラスという名の若い宇宙海賊が喧嘩三昧の生活を送っていました。
このマーベラスという男、かつて7年前に貨物船で密航しようとして宇宙空間でザンギャック軍の襲撃に遭遇して命を落としかけていたところを、たまたま通りかかった宇宙刑事ギャバンに救われた、あの浮浪児の成長した姿でした。あの時12歳だった浮浪児は、あの事件の後、それまでの名前を捨てて、自分でつけた新しい名前「マーベラス」を名乗るようになり、宇宙海賊になりました。ギャバンが自分の正体を明かさずにその場を去ったので、浮浪児は自分を助けてくれた男が宇宙刑事だったとは気付かず、宇宙海賊であったと勘違いしていました。
0153.jpg生まれてすぐに故郷の星をザンギャックに滅ぼされて家族も失い自分が何者であるのかも知らなかった浮浪児の少年は反逆星の生き残りとして酷い迫害を受け、このザンギャックに支配された宇宙で生きる希望を失っていました。そんな少年の心にギャバンの「素晴らしい未来を掴み取ろうとすれば人は勇気を持つことが出来る」という趣旨の励ましの言葉が響き、少年は生きる希望を再び持つことが出来ました。
それはザンギャック軍に立ち向かって自分を助けてくれたその男のように勇気ある宇宙海賊となることであり、その勇気を持つためには自分にも掴み取るべき「素晴らしい未来」が必要だと思った少年は、宇宙海賊の誰もが掴み取ることを夢見る素晴らしいお宝があると聞き、自分はそのお宝を掴み取る宇宙海賊になろうと心に決めました。そのお宝が、海賊なら誰もが手に入れたいと思いながら今まで誰も手に入れたことがないという「宇宙最大のお宝」であり、その素晴らしいお宝を手に入れるという決意の証として、少年は「素晴らしい」という意味を持つ「マーベラス」という名を名乗ることにしたのでした。

そうしてマーベラス少年はまずは海賊になるためには海賊団に入れてもらおうと思い、それなりの規模の海賊団を見つけて入団を願い出て、その海賊団は下働きでこき使えると思ってマーベラスを仲間に入れてやりました。マーベラスはまだ子供だったのでその海賊団ではひとまず戦闘要員としては扱われず、もっぱら炊事洗濯料理などの雑用の下働きをさせられました。
だが宇宙最大の宝を狙う宇宙一番の海賊を目指すマーベラスがそんな雑用係で満足するはずもなく、さすがに大人と対等に戦うのは今はまだ無理だと思ったマーベラスは、まずは航海技術を修得しようと決め、雑用の合間を縫って操舵室に何度も押し掛けて先輩海賊たちに頼み込んで教えてもらい、海賊船の操縦法を着々と修得していきました。3年はそのように操船術の習得に励み、15歳となったマーベラスはもともとスジが良かったのか、若くして一流の操船術を身に着けるようになっていました。
だがマーベラスは航海士に専念した方がいいという先輩海賊たちの意見に反して、そろそろ背も伸びて身体も大人並みになったので他の海賊たちと一緒に武器を持って船の外に戦いに出たいと希望しました。マーベラスは別に単なる航海士で終わるつもりなど無く、宇宙一番の海賊になるためには操船術だけでなく腕っぷしも一番でなければいけないと考えており、3年間みっちりと大人に混じって海賊式の戦闘術の訓練は積んでいました。それでも身体が小さいうちは足手まといになるので実戦には連れていってもらえていなかったのですが、成長期に入って急速に身体が大きくなってきたのでマーベラスは強く実戦参加を願い出て、遂に許可を得て初陣を飾ることとなりました。
マーベラスとしてはいよいよ自分の最強伝説の幕開けだと浮かれていましたが、初陣は拍子抜けするものでした。マーベラスを含んだ海賊団の部隊が武器を持って襲ったのは普通の商家や民家であり、やったことといえば一般人を縛り上げて恫喝して金品を奪う略奪行為でした。マーベラスは道徳的な教育を受けたことはないので、窃盗や殺人などの悪事に抵抗があるわけではない。だが、弱い一般人を苛めるような行為は、かつて自分が小さい頃にザンギャックや他の人々に苛められていたのを思い出してあまり良い気分はしなかった。それに何よりも、強敵と戦って腕を磨くことを期待していたマーベラスにとっては、この単なる弱い者イジメのような戦いは非常に期待外れなものでした。
その後もそうした略奪作戦が続き、不満を燻らせて参加していたマーベラスは、何度目かの略奪の際にザンギャックの官憲がやって来たので遂にまともな戦いが始まると期待しましたが、仲間たちがさっさと撤退するので驚きました。それでも1人残って戦おうとしたマーベラスでしたが、仲間たちに無理矢理連れて行かれて、結局逃げる羽目になってしまいました。

その後、マーベラスが戦えなかったことを不服がると、仲間たちは余計な戦いなどせずに奪うものを奪えば逃げればいいのだと言い、マーベラスもそれは確かに一理あるとは思ったものの、こんな手ぬるいことばかりしていて「宇宙最大のお宝」が手に入るのだろうかと不安になりました。それでマーベラスが仲間たちに向かって、つまらない略奪よりも「宇宙最大のお宝」を早く探しに行かなくていいのかと質問したところ、仲間たちは大笑いして「宇宙最大のお宝」などタダの伝説に決まっている、本当にあるわけがないだろうと言うのでした。
マーベラスは驚いて、伝説などではない、きっと在るはずだと言い張りますが、仲間たちは今までどんな海賊も「宇宙最大のお宝」など見たこともないし、それが何処にあるのか、どんな姿形をしているのか、どうすれば手に入れることが出来るのか、何も知らなかったのだからそんなものは単なる伝説としか考えられないと言い、逆にマーベラスに向かって、じゃあお前は「宇宙最大のお宝」について何か知っているのかと質問してきました。
マーベラスは確かに「宇宙最大のお宝」について何も知らない。てっきり仲間の誰かが何か手がかりを知っているものだと思っていたので目算は外れていました。だから返答に窮してしまい、仲間たちはそんなマーベラスを見て、その単細胞ぶりを嘲笑い、そんな在りもしない物を追いかける海賊は何処にもいないんだよと教えました。そして、目の前にぶら下がった手に入りそうな物を欲望に任せて奪い取るのが現実の本当の海賊だと仲間や先輩たちはマーベラスに言いました。
しかしマーベラスは「宇宙最大のお宝」を手に入れるために海賊になった。いや、正確には「宇宙最大のお宝」を掴み取ろうとすることによって湧き上がってくる勇気を持つ海賊になることがマーベラスの生きる意義そのものとなっていました。だから「宇宙最大のお宝」を諦めるというのはマーベラスにとって自分の人生を否定するに等しい。だからマーベラスはあくまで「宇宙最大のお宝」を諦めませんでした。
マーベラスは仲間や先輩たちに向かって、欲しいものを自分の手で奪い取るのが海賊だというのなら自分が海賊として「宇宙最大のお宝」を奪い取る生き方を選ぶのは当然だと言い、「宇宙最大のお宝」を追いかけないこの一味には用は無いと告げ、脱退して今後は1人でお宝を探すと宣言しました。
突然のマーベラスの脱退宣言に仲間たちは驚きました。アウトロー集団である海賊一味は簡単に脱退が許されるようなものではない。勝手に抜けるなどと言っても五体満足で抜けさせてくれるはずもない。それでもあくまで抜けるというマーベラスは殺気立った仲間たちに取り囲まれましたが、マーベラスは大立ち回りの末、襲ってきた一味の強者たちをぶちのめして小型艇を強奪し、そのまま強引に一味を飛び出していったのでした。

その後、その海賊団はザンギャック官憲の手入れを受けて壊滅したので、幸いマーベラスにしつこく追手が差し向けられるようなこともなく、マーベラスは弱冠15歳にして一匹狼の海賊として生きていくことになりました。その生計を支えるためにマーベラスはもともと居た海賊団で磨いた操船術を駆使して旅先であちこちの海賊団に話をつけて臨時の航海士を務めることとしました。
そうして日雇いの金を稼いで生活費や旅の費用に充てていましたが、マーベラスはそれら旅先で仕事を請け負った数々の海賊団の戦闘には参加しませんでした。それは、それらの海賊団の戦闘といっても以前の海賊団同様、弱者からの略奪ばかりであったからでした。まず基本的にマーベラスはかつて自分自身がザンギャックや世間に虐げられていた立場だったため、弱い者を苛めるような行為が好きではなかった。それにそんな弱者苛めのようなことばかりしていても「宇宙最大のお宝」を手に入れるに相応しい強い海賊になれそうにない。だからマーベラスは海賊団の戦闘には参加せず、操船の仕事だけしていました。
その代わり、マーベラスは強い海賊となるために武者修行を兼ねて喧嘩三昧の生活を送ることにしたのでした。実際、宇宙を旅しながら海賊の助っ人航海士の仕事をするといっても、絶え間なく仕事にありつけるわけでもない。操船の腕を見込まれて杯を交わして正式な団員になるよう求められることも多く、そうした方が食いっぱぐれがないのも確かでしたが、どの海賊団も「宇宙最大のお宝」の存在を本気で信じて手に入れようとしていなかったのでマーベラスは団員になる気にはなれませんでした。そんな一味の仲間になってしまったら自由にお宝探しを出来なくなってしまうからです。
だから臨時の日雇い仕事しかありつけないマーベラスは旅先で仕事にありつけずヒマな時も多く、収入も不安定でした。そこでマーベラスはそうしたヒマな時期には手当たり次第に気に入らない相手に喧嘩を吹っ掛けて回ることにしたのです。憂さ晴らしという意味合いもありましたが、喧嘩をすることで実戦訓練を兼ねていたのでした。
マーベラスは弱い者苛めが嫌いでしたので、マーベラスが気に入らない相手は大抵は弱者を苛めているような連中が多く、そういう連中というのは大抵はそこそこ強い連中だったので、武者修行の相手にはほど良い相手であったのです。またそういう連中は大抵は卑怯者であったので、そういう連中に喧嘩を売ることでマーベラスは大勢による騙し討ちのような不利な局面での戦いの経験も多く積むことが出来ました。それにマーベラスのぶっとばしたいほどに気に入らない相手には基本的に弱い者は含まれていなかったので、気に入らない相手に喧嘩を売っている限り、マーベラスは自分の嫌いな弱者苛めをしないで済みました。だからとにかくマーベラスにとっては、気に入らない相手に手当たり次第に喧嘩を吹っ掛けて損をすることはなかった。

そしてマーベラスが喧嘩を売ってやっつける相手というのは誰かを虐げて酷い目に遭わせていたような場合が多かったので、結果的にマーベラスのお蔭で助かる人というのも結構多かったのですが、そうした人々は別にマーベラスに感謝することというのはほとんどありませんでした。何故ならマーベラスは喧嘩をしてやっつけた相手から当然のように戦利品として金品を奪っていたからです。
マーベラス自身、単に気に入らない相手をぶっ飛ばしていただけであり、人助けや善行をしているという意識は全く無かった。決して育ちが良いわけでもなく海賊根性が染みついているマーベラスには喧嘩で負かした相手から戦利品をいただくのは当たり前の権利だという感覚があり、実際のところ収入が不安定であったので喧嘩相手から巻き上げる金というのもマーベラスの生活費の中で欠かすことの出来ない収入源でもありました。
ただ、金品目当てに相手を襲っているわけではなく、あくまで喧嘩することが目的であり、勝てばその場で持ち金を巻き上げるだけのことであったので、結局はマーベラスが悪者を喧嘩でやっつけても、その悪者にそれまで酷い目に遭わされていた人達は奪われた金品が戻ってくるわけでもない。その場で悪者に殺されかけていた人が命拾いするぐらいのことです。マーベラスはそれ以上の正義の行使は決してしないし、そのささやかな正義の行為も、喧嘩の後でマーベラスが相手から金を奪う行為を見ることによって人々の心の中で帳消しになってしまいます。
だから人々は結果的にマーベラスの行動によって助かった場合でも大抵はマーベラスに感謝などしませんでした。単にキレやすい無法者だと見なして恐れ、毛嫌いしただけでした。マーベラスは弱者苛めはしない主義であったのですが、そんな自分の主義をいちいち説明などしませんから、人々は今度はマーベラスが自分達を暴力で支配して収奪しようとするのではないかと誤解して恐れるのは当然でした。
マーベラス自身、自分が正義であるなどという意識は全く無く、そもそも正義とは何なのかすら全く知らないのですから、海賊である自分が一般の人々から嫌われ恐れられるのは当たり前のことだと思い、人々が自分に冷たい視線を向けることは一向に気にしていませんでした。マーベラスはただひたすら強くなるため、そして生活費の小銭を稼ぐために旅先でいつも気に入らない相手に喧嘩を吹っ掛けまくり、何処に行っても人々からは乱暴者として忌み嫌われていったのでした。
そんなマーベラスを嫌ったのは一般の人々だけではなく、当然のことながら喧嘩相手からも恨まれていきました。特にマーベラスが気に入らないと感じる相手は弱い者をいたぶるような卑怯者なのですから、そこには当然ながら宇宙各地で横暴や腐敗を極めていたザンギャックの官憲や軍の関係者も多く、すっかり気に入らない相手には誰かれ構わず喧嘩を売るクセのついたマーベラスは、さすがにザンギャック軍の正規戦闘部隊に1人で正面切って戦いを挑むようなことはしませんでしたが、それでも駐屯地の官憲や警備兵ぐらいのゴーミン相手ならば平気で喧嘩を売っていきました。そうして次第にマーベラスはザンギャックの官憲からも恨まれマークされるようになり、いっぱしの賞金首のお尋ね者となっていきました。
また、マーベラスは気に入らない相手と感じれば同業者である海賊にも平気で喧嘩を売りまくっていたので、次第に海賊業界でも鼻つまみ者となっていき、臨時の航海士の仕事も減っていき、そうなるとマーベラスとしても旅を続けていくために必要な金は喧嘩相手から巻き上げる金に依存していく度合いが更に上がっていくことになりました。
元来はマーベラスは自分の感情をコントロール出来ないほど短慮な男ではなく、意外に思慮深く繊細であり、喧嘩っ早いのも強くなるためという計算があっての行動であったのですが、こうして貧してくると何時しかマーベラスの喧嘩の目的も相手から金目のものを奪うことの方が主となっていき、一応は強い相手と戦うという原則は維持しつつも、内実はかなり荒んだものとなっていきました。

0141.jpgそうして殺伐とした生活を3年以上も過ごして、地球暦で2012年にあたるこの年が明けて、自分の誕生日も知らないマーベラスは元旦に年齢を加算することにしていましたので19歳となりましたが、背も更に伸びて顔も眼光鋭いチンピラ風情となり、もはやかつてギャバンと出会った頃の少年の面影は消え去っていました。
マーベラスがここまで荒んだ風情となってしまった原因は喧嘩三昧の殺伐とした生活や世間の冷たい風当たりなどももちろんありますが、それらはもともと「宇宙最大のお宝」という夢を掴むために自ら進んで突き進んだ道であったはずです。だから、夢に向かって着実な成果さえ上がっていればマーベラスの心がそれほど荒むはずもない。最大の問題はその「宇宙最大のお宝」探しが全く成果が上がっていなかったことでした。
何処に行って誰に聞いても、誰も「宇宙最大のお宝」について何も知りませんでした。それどころかマーベラスが「宇宙最大のお宝」の存在を本気で信じて手に入れようとしていると知ると、誰もが冷笑し、バカにしました。そうして3年以上の年月を過ごし、マーベラスは全く孤立した状態で遂に先の見えない壁にぶち当たり、彼自身が「宇宙最大のお宝」というものが本当に存在するのかどうか疑問を感じるようになってきてしまいました。
これだけ探しても手掛かりさえ見つからないということは、やはり他の海賊たちが言うように「宇宙最大のお宝」はタダの伝説に過ぎなかったのではないかとマーベラスの心は揺らぎ、結局自分は実在もしない伝説を追いかけているうちに世界中から嫌われる孤独なはみ出し者になって、自分で自分の人生を台無しにしていただけなのではないかと焦る気持ちが湧き上がってきました。そうして、その疑念を否定しようとする想いとその疑念とが葛藤し、マーベラスの心を苛立たせていっそう彼の表情を険しいものとしていたのでした。

0144.jpgそうした時、マーベラスの前にキアイドーという賞金稼ぎが現れました。マーベラスはキアイドーとは初対面でしたが、その名は当然知っていました。キアイドーは宇宙一の賞金稼ぎとして名を馳せており、賞金首となっている者でその恐ろしい名を知らない者はほとんどいなかったからです。キアイドーはマーベラスの前に突然現れて金と戦いこそが退屈を解消する薬だなどとキザな言葉を投げかけてきましたが、要するにどうやらそろそろいっぱしの賞金首となった自分を倒して賞金を稼ぐためにやって来たようだとマーベラスは解釈しました。強い奴らと戦う経験を散々積んできたマーベラスにはキアイドーが自分よりも格上の相手であることは一目で分かりましたが、そういう相手と戦うことで自分を鍛えてきたマーベラスはむしろ戦いは望むところだと思い、いきなり襲ってきたキアイドーと戦い始めました。
これまでにもマーベラスは格上の相手とも何度も戦ってきており、当然いつも勝っていたわけでもありませんでした。強い相手と戦った結果、敗走することもしばしばあった。キアイドー以前にも凄腕の賞金稼ぎとやり合って負けて逃げたこともありました。だからマーベラスはキアイドーに負ける可能性があることも十分承知していましたが、敗北を恐れてなどいませんでした。
これまでにも強敵に敗北したこと自体を糧にして自分は更に強くなってきて、最終的にはその強敵を撃ち破ってきたことも多かった。自分を強くするためには勝ち目の薄い相手とも戦って、時には負けることも必要だということはマーベラスには分かっていました。負けても生きる意思を失わずしぶとく生き延びればいいのであり、敗北の悔しさをバネにして不屈の闘志を維持すれば必ず強くなってリベンジは可能となる。もし万が一負けて死ぬのであれば、自分はそこまでの男だっただけのことであり、到底「宇宙最大のお宝」を掴む器量の男ではなかったというだけのことだとマーベラスは割り切っていました。つまり、「宇宙最大のお宝」という夢へ向かう強い意思がマーベラスに敗北すら恐れさせない勇気を与えていたといえます。
これまでもそのようにして強敵と戦ってきたので今回もマーベラスは怯むことなくキアイドーに立ち向かっていきましたが、やはり予想通りキアイドーは恐ろしく強く、マーベラスは絶体絶命の窮地に追い込まれてしまいました。ただ、これまでならばこれぐらいの窮地でマーベラスの心はまだ折れませんでした。勝ち目が無いと判断すればマーベラスはまずはその場を逃れてリベンジに備えようと思い、何とかして相手の隙を見出してやろうとしていました。ところがこの時はマーベラスは武器を弾き飛ばされて尻もちをつきキアイドーに剣を突きつけられると身が竦んで動けなくなってしまったのです。
そして、今まで強敵に追い詰められた時には生じたことのないこうした自分の心身の異常事態にマーベラスが混乱していると、目の前でキアイドーがそれ以上の異常な行動に出ました。へたり込んでしまったマーベラスを見てつまらなそうにしたキアイドーはいきなり自分自身の胸に剣を突き立てて傷を負わせ、フラつきながら、これで自分に弱点が出来たのだから勝負が面白くなってきたと高笑いし、マーベラスに向かって自分と戦うよう迫ってきたのでした。
それを見てマーベラスはキアイドーが狂っていると悟りました。つまり、最初に嘯いていたように、キアイドーは金と戦いの快楽を得るためだけに戦い続けているのであり、それ以外に退屈な人生を生きる意味を見出せない歪んだ心の持ち主であったのです。戦いに勝って生き残り、その命を使って何かを成し遂げようなどというマトモな夢や目的など持っていないので、わざわざ自分に傷を負わせてまで戦いのスリルを楽しもうとする異常人格者がキアイドーの本質でした。それは夢のために戦い続けてきた自分とは正反対の生き方であると、それまでのマーベラスだったら感じたはずです。
だが、その時マーベラスは戦いの快楽に溺れて狂ったように喚き続けるキアイドーの姿を見て、自分も実はキアイドーと大差ないのではないかと思えました。自分も実際はただ強敵との戦いの快楽と生活の糧である金品強奪のためだけに戦っているのではないか。キアイドーの狂気に歪んだ姿を見てそんなふうに感じてしまったマーベラスは、それは自分が何時の間にか自分の夢を信じられなくなっていたからだと気付きました。「宇宙最大のお宝」など実在しない伝説に過ぎないと思うようになってしまっていたからこそ、自分の戦う意義をそんなふうに卑下して見てしまったのだと気付いたマーベラスは、だからさっき自分はキアイドーに追い詰められて身が竦んでしまったのだと理解しました。
自分は素晴らしい夢を掴む意思を持つことによって勇気を得てきた。だから夢を信じられなくなった自分にはもう勇気は湧いてこない。戦いの快楽に突き動かされて狂ったように戦い始めてみたものの、圧倒的実力差で追い詰められた時、それを撥ね返す勇気を持たなくなっていた自分は無様に恐怖心に支配されてしまったのだ。そうした自分の情けない真実に気付いたマーベラスは、キアイドーを前にして恐怖のあまり腰を抜かしてしまったのでした。

0143.jpgガクガク震えてその場を逃げ出すことすら出来なくなってしまったマーベラスの命運はもはや尽きたと思われましたが、何故かキアイドーはうわ言のように戦いの快楽に浸って喚き散らした後、マーベラスに手を出さずにその場を去っていきました。
キアイドーは最初はマーベラスとの戦いの継続を望んでいたようですが、マーベラスが戦意を喪失してしまったのを見て興醒めしました。通常ならばそのまま相手にトドメを刺して戦いを終えるところでしたが、キアイドーはマーベラスと戦ってみた結果、マーベラスの潜在能力がまだまだ底知れないことを見抜いていました。だからこそ、もっとスリリングな戦いが楽しめると思ってマーベラスに戦いを続けるよう迫ったのですが、マーベラスが戦意を喪失したのを見て、キアイドーはマーベラスの潜在能力の開花には時間がかかるのだと悟り、今回は見逃しておいて、いずれもっと強くなったマーベラスと再戦して、極上の戦いの快楽を貪りたいと考えたのでした。おそらくその頃には今よりももっと大物犯罪者となったマーベラスの賞金額も跳ね上がっているはずであろうから、その時を待ってマーベラスを倒した方が金銭的にも得だという考えもキアイドーにはあったようです。
しかし、そんなキアイドーの歪み切った考えなどマーベラスに想像も出来るわけもなく、キアイドーの立ち去った場所で腰を抜かしたまま取り残されたマーベラスは、どうして自分が見逃して貰えたのか理由が分からず戸惑いました。だが、そんな戸惑いも霞んでしまうほどにマーベラスの心にはもっと大きな困惑が広がっていきました。自分は何時の間にか勇気を失ってしまった。いや、その勇気の源である夢を信じられなくなってしまっていた。そのことを自覚したマーベラスは、夢を見失った自分はこれから先、何のために生きていけばいいのか、全く分からなくなってしまい途方に暮れるのでした。


それがちょうどアカレッドがナビィと共に「赤き海賊団」を立ち上げてレンジャーキー探しの旅を開始した頃の出来事です。そして、その頃にはザンギャック帝国の中枢ではでっち上げた反乱勢力に対する虚偽の征討戦争の準備が着々と進められていました。といっても正規軍の出番はほとんど無いので、その準備は主に皇帝アクドス・ギルの周辺でのみ進められており、軍の総司令官である皇太子ワルズ・ギルは蚊帳の外でした。
先の地球との戦いで指揮下の派遣軍が全滅するという大失態を演じてしまったワルズ・ギルでしたが、敗戦の原因は本当は実在しない反乱勢力による妨害工作であったとアクドス・ギルによってでっち上げられたため、ワルズ・ギルは一切責任を追及されることもなく総司令官に留任しており、参謀総長のダマラス以下の幕僚たちもそれは同様でした。だが実際はワルズ・ギルや幕僚たちの失態であったことは彼ら本人も皇帝アクドス・ギルももちろん承知しているため、ワルズ・ギルや幕僚たちはアクドス・ギルにどうも頭が上がらない状態でした。
それでもまだアクドス・ギルに征討戦争への同行を命じられている幕僚たちはその指令に忠実に従って骨を折ることで立場を保つことは出来ましたが、本星に居残って軍の再編に取り組むようアクドス・ギルに命じられたワルズ・ギルはどうも立つ瀬がありませんでした。冷静に考えればそれこそが総司令官としては敗戦後の混乱した現状では最も重要な仕事なのですが、ワルズ・ギルはそんな地味な仕事よりも華々しい戦場での名誉挽回を望んでいましたので、自分の処遇に不満を抱きました。
いや、そもそもワルズ・ギルにそんな緻密な仕事が出来るわけもない。まぁ戦場での名誉挽回も実際のところ臆病者のワルズ・ギルに出来るわけもないのですが、それ以上に軍の立て直しのような地道で緻密な仕事は決定的にワルズ・ギルには不向きでした。アクドス・ギルもそれが分かっていてワルズ・ギルにそんな仕事を振ったというのは本心では今回の自分の親征に息子を連れていくと何かと目立とうとして面倒くさいと思って体よく厄介払いしたというところなのですが、実際ワルズ・ギルに軍の再編など出来ないことは分かっていますから、あくまでワルズ・ギルは飾りであり、ワルズ・ギルを補佐しての軍の再編の実務を任せる人材を留守番に残しておくことも忘れてはいませんでした。それが参謀総長のダマラスでした。
こうしてダマラスはワルズ・ギルと共に本星で留守番ということになってしまったのですが、ワルズ・ギルはダマラスに対して内心含むところがありました。地球との戦いの敗戦処理を何やら父アクドスと共にコソコソと決めてしまったダマラスが現在の自分の処遇の決定にも一枚噛んでいるように感じてワルズ・ギルは面白くなかったのです。何か父とダマラスが裏で結託して自分をコケにしているような印象をワルズ・ギルは抱いていました。それはかなり被害妄想が入っていましたが、そんな妄想に捉われると留守番役のダマラスが自分への監視役であるかのようにも思えてきて、ワルズ・ギルはますます面白くない。結局のところは父への不満が背景にあるのですが、父には正面切って逆らうことが出来ないので、その苛立ちは八つ当たり気味にダマラスに向かうことになります。
ワルズ・ギルはダマラスが戦場での華々しい武勲を誇りとしていることを知っていましたから、そうした誇りを侮辱するような扱いをしてやろうと意地悪な考えを抱き、ダマラスに対してどうせ戦場に行かないのならば戦場に行く者達のための物資の調達の仕事でもやるように言い渡し、ダマラスを今回の戦争の物資調達係にしてしまいました。ダマラスとて兵站の重要性は理解していましたが、前線育ちの自分が兵站がどちらかというと不得手であることは分かっていましたし、そもそも参謀総長がやるような仕事ではない。それをどうせお前は戦場に行かないのだからなどという言い方をされて命じられるというのは、至ってダマラスのプライドを傷つけ、ダマラスはワルズ・ギルのことを改めて部下に対して配慮に欠けた無能司令官だと思って呆れました。
だがそれでも重要な仕事であることも分かっていましたからダマラスは真面目にアクドス・ギルからワルズ・ギル経由でリクエストされる物資の調達にあたったのですが、その過程で重大な不祥事が起きてしまいました。

今回の戦争は事実上は皇帝座乗艦である帝国艦隊新鋭旗艦のギガントホース1隻で開戦することになりますが、そこで必須となるのがギガントホースに大量に搭載されている大量破壊兵器であるギガロリウム砲のエネルギー源である大量のギガロリウムの確保でした。ギガロリウムは自然界にそのまま存在する物質ではなく、ある星で採取される特殊なエナジークリスタルから精製して作り出すものでした。
ギガロリウム砲は皇帝しか自由に扱うことの出来ない兵器でしたので、そのエナジークリスタルは帝国、いや皇帝にとって最重要の戦略物資という扱いとなっており、このクリスタルの採取される星は皇帝の直轄領として親衛隊の厳重な統制化に置かれており、その精製工場や保管庫も皇帝直轄で厳重な管理化に置かれていました。そもそも、このギガロリウム砲というものは皇帝の切り札的な存在であり、実際に戦場で使われたことはほとんどありません。だからこのエナジークリスタルもこれまでこの皇帝直轄の厳重な管理体制の外に出たことがほとんど無かったのです。
だが実戦投入となるとそうもいかない。比較的警備の手薄な武器輸送経路の中を通ることになります。そうした結果、このギガロリウムの原料となる高純度のエナジークリスタルが盗まれるという不祥事が発生したのでした。ダマラスは大慌てでいったい誰が大事なクリスタルを盗んだのか調べさせたところ、ザンギャック軍の物資を専門に狙う札付きの女盗賊のルカ・ミルフィという者の仕業だと判明しました。

0010.jpg2010年に故郷の星を飛び出して盗賊に身をやつしていたルカ・ミルフィは、戦災によって親を失った子供たちがザンギャックの暴虐から逃れて安楽に暮らせる地を作るため星を丸ごと買い取る金を貯めようとしていましたが、2年弱ほどの盗賊稼業の成果は芳しいものではありませんでした。
いや、16歳で盗賊となり、この年ようやく18歳となっていた若さでありながらルカは一流の窃盗技術を身につけており、格闘術や変装術なども含めてその腕前は盗賊業界では高い評価を得ており、その腕前に見合った実績もしっかり上げていました。しかしルカの場合は他の盗賊のように手当たり次第に盗みまくるわけではなくザンギャック関連の物資しかターゲットとしていなかったため、どうしても仕事の幅が狭く、稼ぎはその分どうしても少な目でした。
一般人もターゲットにすれば稼ぎが増えることはルカも分かってはいたのですが、もともとザンギャックに苦しめられている子供たちを救おうと思ったことから始めた盗賊稼業で無辜の市民の財産を奪うような真似をしては本末転倒だと思い、どうしてもザンギャック関連以外をターゲットにする気になれませんでした。そんな幅の狭い仕事で早く星を買えるだけの金を貯めるには1つ1つの仕事の単価を上げていくしかない。つまり出来るだけ高く売りさばける金品をザンギャックから盗んでいくしかないのです。それでルカはいつも盗品の転売屋に高く売れるブツに関する情報を貰うようにしていました。

盗賊がターゲットから金品を盗むだけでは盗賊稼業は成り立たない。その盗んだ品を盗賊から買い取る転売屋が存在するからこそ盗賊稼業は成立するのです。転売屋は独自の情報網を持っており、今どんな物品が何処に存在しており、どの物品が高く売れるのか、その物品の保管、移動、警備などの情報を全て把握しており、そして盗品を売りさばく独自の闇流通ルートを持っています。だから盗賊は転売屋からその時点で高く売れる見込みがあって盗み出すことが容易な品の情報を仕入れて盗みを実行し、首尾よく手に入れた品を転売屋に買い取ってもらうのです。
そうして盗賊から仕入れた盗品を転売屋は上手くアシがつかないように売りさばいて儲けることになっており、盗賊は転売屋がその品を何処にどんな値で売っているのか知らないし興味も無い。ただ単に転売屋が提示する買い取り額の高い品を盗むだけのことです。転売屋は決して自分では盗みに入ることはなく、そのようにして情報を与えて盗賊に盗みを実行させて盗品を盗賊から買い取り、何処かの顧客に転売するのが仕事です。盗賊と転売屋の間にはあくまで対等の商売関係があり、互いに持ちつ持たれつの不可分の関係にあるといえます。
つまり転売屋は盗賊の元締め的な存在というわけではないので、盗賊は転売屋の指示に従って盗みを行うわけではない。あくまで転売屋の勧めるターゲットの中から自分のターゲットを自由に選ぶことが出来るし、最終的にどのターゲットも選ばないことも可能です。もちろん高く売れる品を盗めればそれに越したことはないのだが、そういう品は大抵は警備も厳重で仕事の難易度が高い。だから大した腕のない盗賊は躊躇するし、下手に二流の盗賊がそんな品を狙って捕まって転売屋の情報が漏れてしまったら転売屋自身も面倒なことになりますから、転売屋も難易度の高い品の情報は一流の盗賊にしか教えません。

ルカは転売屋から見て一流の腕を持つ盗賊でありましたので、ルカが馴染の転売屋にとにかくザンギャックの物資で高く売れるものは無いのかと問い合わせてきた時、転売屋はとっておきの情報をルカに与えたのでした。それが例の高純度のエナジークリスタルに関する情報でありました。ルカはそれが一体どんな物質であり、どういう用途のものであるのか知りませんでした。また転売屋もそれについてルカに教えたりはしませんでした。そんなことはルカが知る必要は無かったし、ルカも全く興味はありませんでした。
転売屋はルカに、とにかくこのエナジークリスタルは普段は盗み出すことは絶対不可能な領域に保管されているものが今だけ特別に表の輸送ルートに出てきた掘り出し物なのだと説明しました。そして、警備はこれまでにないほど厳重なものではあるがルカの腕ならば盗み出すことは不可能ではないと言い、転売屋はルカに破格の買い取り額を提示しました。
0150.jpgルカにとっては話はこれだけで十分であり、エナジークリスタルの用途などはどうでもいい話でした。ルカはその場で盗みの仕事を請け負うことを決め、ターゲットとなる数多くのエナジークリスタルの輸送や警備に関する情報を転売屋に聞き、そして次々と盗みを実行し、まんまと多くのエナジークリスタルを盗み取ることに成功したのでした。
大事なエナジークリスタルを盗まれたと知ったダマラスは大慌てで下手人を調べさせたところ、手口から見ておそらくルカ・ミルフィというザンギャック物資を専門に狙う女盗賊の仕業だということが判明し、激怒したダマラスはクリスタルを奪還すべくルカの行方を部下たちに探させましたが、ルカはさっさとクリスタルを転売屋に売り渡して行方を眩ませてしまいました。

ところが、このルカの行方を追っていたのはダマラスの配下のザンギャック官憲たちだけではありませんでした。ザンギャック官憲とは全く別口で、カインという23歳の青年実業家もまたルカ・ミルフィの行方を探していたのでした。このカインはルカの同郷の元スラムでの幼馴染であり、ルカに秘かに想いを寄せていた男でした。ルカが故郷の星を飛び出した後、ルカの夢に協力出来なかった自分の無力を反省したカインもその後すぐに一念発起して星を飛び出して商売を始め、金を稼いでルカの夢である子供たちの安息の星を買い取るという目的を実現しようとしていたのです。
ルカとは違って商才に恵まれていたカインは金になることは何でもやって、最初は惨めな暮らしをしていましたが、すぐに商売は順調に軌道に乗っていきました。だが人の住める星を買い取るとなると、それこそ天文学的な金額が必要であり、真っ当な商売だけやっていてもそんな大金がすぐに貯まるはずもない。夢の実現のためにはもっと大きなビジネスに進出しなければいけないと考えたカインは当初から選択肢の中には有りながらも躊躇していた軍需関係のビジネスに進出することにしました。
もともとザンギャック軍によって戦災孤児とされたカインですから、ザンギャック軍の活動を支援するビジネスなど本音ではやりたいはずもない。自分が売った物資で活動したザンギャック軍によって宇宙の各地で自分と同じような戦災孤児が生み出される可能性も大いにあり、そんな犠牲の上で儲けた金で戦災孤児を救うための星を買うなど、カインにはとんでもない矛盾であるように思えました。
だから当初はザンギャック軍との取引だけはしないようにしようと心がけていたカインでしたが、そんなことに拘っていては一生かかっても星を買うことなど出来ないことに気付くのにそう時間はかかりませんでした。この宇宙のビジネスは悲しいかなザンギャックの軍需経済を中心に回っているのであり、それと無関係でいながら商売の規模を拡大するなど不可能でした。軍需経済から距離を置き、この宇宙で手を汚さずに金を儲けようなどというのは綺麗事の自己満足に過ぎず、非現実的な妄想でした。
そもそも、カインが既に手をつけていたビジネスにしたところで、カイン自身は注意深くザンギャック軍との取引を避けていたつもりでしたが、結局は回り回ってカインの売った品物はザンギャック軍の手に渡り、ザンギャック軍の宇宙各地での暴虐を支えていました。それが現実なのであり、その現実を見ないフリをして自分だけは綺麗な存在でいるのだとカインは必死で思い込もうとしていただけでした。
そんな現実逃避はもうやめようとカインは思いました。この汚れた宇宙で夢を実現するために金を儲けようとするからには、自分も汚れるしかない。夢を叶えるためにあえて泥まで喰らおうと決意したカインはこの2012年の明けた頃からザンギャック軍に出入りして物資の調達を請け負うようになっていました。それによってカインのビジネスは急速に拡大していきました。
折しも年明け後すぐにザンギャック軍の活動は活発となっていました。カイン達のような商人たちはザンギャック軍が地球で敗戦を喫して中央軍が全滅したことなど知りませんでしたが、それによって宇宙全体でザンギャック軍の配置転換や再編が加速しており、それに伴って膨大な軍需物資が動くことになったので、商才の長けたカインはその大きな動きの中で一気に頭角を現して大富豪となっていくこととなったのです。

0147.jpgだがカインは軍需ビジネスに手を出してしまったことで、夢には近づくことは出来たかもしれないが、これでもうルカを迎えに行くことは出来なくなったと思い、落ち込みました。夢を叶えるために決断したことだから決して後悔はしていないし、後戻りするつもりもありませんでした。だが、この夢はもともとはルカの夢であり、ルカの夢を叶えるために自分は金儲けを始めたはずだった。だから夢が叶うようになったらルカを探し出して迎えに行き、その時にプロポーズしようとカインは心に決めていました。
だがルカは決して親兄妹や仲間の仇であるザンギャック軍と馴れ合って金儲けをした自分を許さないだろうし、きっと汚れてしまった自分を軽蔑するはずだとカインは思いました。カインの知るルカは純粋で一本気な少女であり、薄汚いことなど決してしない誇り高い女でした。きっとルカは自分のように悪魔と取引などせず、あくまで真面目に地道に働いて星を買うための金を貯めようとしているはずだとカインは思い、自分はそんなルカの前に立つ資格など無い男に成り下がったのだと自己嫌悪に陥りました。そんなふうにルカのことを想うと今の自分が嫌になって仕方ないので商売に支障まできたしそうになり、カインはいっそルカのことは忘れようとまで思いつめるようになりました。

そうした中、極秘に新たな征討戦争が準備されているとのお達しがあり、カインを含む有力な商人たちがダマラス参謀総長の配下の軍に集められて、内々に物資の新たな調達を命じられることとなり、その時、物資運搬時に警戒すべき盗賊や海賊の手配書が配布されました。その時、カインはその手配書の束の中にルカの顔写真入りの手配書を見つけて仰天しました。さすがに見間違いかと思い目を疑いましたが、確かにそれはルカの顔であり、ルカ・ミルフィという名もしっかり記してありました。罪状を見ると、ザンギャックの物資を多数盗んだとのことであり、あまり具体的な情報はありませんでした。
ダマラスは貴重なエナジークリスタルを盗まれたことを公式に認めておらず、内々で処理しようとしていたのでルカがエナジークリスタルを盗んだことは隠していました。ただ、ルカの与えた損害があまりに大きかったので、ダマラスとしてもここに来て初めてルカを特に警戒すべき盗賊のリストに加えざるを得なくなったのでした。それをちょうどカインが目にすることとなり、カインは初めてルカが盗賊をしているという事実を知ることとなったのでした。
カインは真面目で純粋だったルカが今や犯罪者となっているという意外な事実があまりに信じがたく、大きなショックを受けてしばし呆然としましたが、少し経って冷静に戻ると、ルカも自分と同じなのだと気付きました。ルカもまた自分同様、夢を掴むためには自らが汚れるしかないと決断したのだ。それがこの宇宙の悲しい現実なのだと思い、カインは少し寂しく思いましたが、同時にルカがあくまで本気で夢を叶えようとして頑張っているのだと知ったことで、妙に嬉しく感じました。お互い決して正しい道ではないかもしれないが、自分もルカもとにかくこの宇宙で同じ夢を掴むために戦っている。ルカも自分と同じであると知ったことでカインは自分の選んだ道はやはり間違ってはいなかったのだと確信し、やはり自分とルカはどんなことをしてもこの夢を叶えるために生まれてきた仲間なのだと実感しました。
世間はどのように言おうとも、自分とルカは夢を叶えるために泥に塗れたお互いを認め合うことが出来る運命の仲間同士なのだと思ったカインは、自分はルカの前に立つ資格を失ってはいないのだと確信しました。ただ、まだ星を買うに足る金を貯めることが出来ていないカインにはルカを迎えに行くことは出来ない。しかし、それはあくまでルカが普通の仕事をしているという想定での話でした。
確かに現時点の自分にはルカと共に夢を叶えるだけの力は無い。夢を叶える財力を得てからルカを迎えに行くのがカインの理想ではありました。しかし、いくらなんでもルカの選んだ盗賊の道は危険すぎました。夢のために汚れても構わないという精神自体は見上げたものです。だが、命を落としてしまっては元も子も無い。生きてこそ夢は叶えることが出来る。ザンギャック軍から賞金首として命を狙われるような生活を送るルカを放っておくことは出来ません。予定よりは少し早いが、一刻も早くルカを見つけ出して盗賊を止めさせなければならないとカインは考えました。

盗賊など止めてもらい、自分と一緒に事業をやって夢を叶えるようルカを説得しようと決意したカインでしたが、問題はルカの居場所が分からないことでした。ザンギャック軍ならばルカの現れそうな場所に見当がつくのかもしれないが、カインがザンギャック軍にルカの行方を問うことなど出来ませんでした。そんなことをすればルカの知り合いであることがバレてしまい、カインはザンギャック軍に拘束されて取り調べを受ける羽目になり、下手すればルカの逮捕に協力させられてしまうでしょう。
カインはルカをザンギャック官憲を欺いて無事に保護したいのだから、この件でザンギャックと協力して行動することは出来ません。だが、ルカの行方を探るにはザンギャック軍の情報ぐらいしかカインには当てに出来そうなものはありませんでした。そうなると、現在ルカの行方を追っているダマラス軍の重要情報を知ることが出来る者で、それでいてカインを拘束して取り調べたりせずにカインに情報を回してくれるような協力者を見つける必要があります。
そんな都合のいい相手がいるものだろうかと思案したカインは、ダマラス軍の中枢に近い立場の私掠船ならばそういうことも可能ではないかと思い至りました。私掠船は軍の一員ではなく基本的に海賊なので、ザンギャック軍に命じられた略奪などは行うが、犯罪者の逮捕の義務などはない。大金を積んで協力を依頼すればカインとの間で情報提供の契約関係を結ぶことぐらいは可能と思えます。そしてダマラス軍の中枢に近い私掠船ならば、重要情報を知るルートも確保している可能性が高く、ルカに関する捜査情報も持ち出してカインに提供してくれる可能性は高い。
そこでカインは同業のダマラス軍の出入り商人に手当たり次第に、自分はダマラス軍には新参なのでこの軍の有力な私掠船を教えてほしいと頼み込みました。私掠船に裏で金を渡して取引に有利になるような情報を得ようとする行為は軍の出入り商人の一部は普通に使う裏技であったので、他の商人たちもカインがそうしたことをしようとしているのだと解釈し、多くはむしろ新参の頭の良さそうなカインを警戒して、とぼけて私掠船の情報を教えてくれませんでしたが、中には親切な者もいて、カインにバスコ・タ・ジョロキアという私掠船の船長ならばダマラス軍の重要情報も漏らしてくれるだろうと教えてくれたのでした。

0142.jpgバスコ・タ・ジョロキアは4年前にダマラスと出会い、殺されそうになりましたが命まで奪われるのは免ぜられて、ダマラスの配下の私掠船の船長に収まっていました。ダマラスはバスコの実力を認めてイザという時に使える手駒として確保しておこうと考えたのですが、バスコの方はダマラスの命令に忠実というわけではなく、かなり好き勝手なことばかりしていました。
ザンギャック帝国の絶滅政策によって迫害されていたカリブ人の生き残りであったバスコはダマラスに会う以前は宇宙に安住の地が無い最悪の生活を送っていたのですが、ダマラスの配下となることによって偽のザンギャック公民の証明書も与えられ、カリブ人の正体がバレない限りは安全に暮らせるようになっていました。その上、私掠許可証まで交付されているので、バスコはザンギャックが敵対する者相手ならば略奪のやりたい放題でした。
いや、ダマラスが自分を手駒として利用価値があると見なしていることを承知していたバスコは、ダマラスやザンギャック帝国への明確な反逆のような余程のことをしなければ自分が始末されないであろうことは分かっていましたから、ザンギャックが敵対する者だけに限らず、相手が無辜の市民でも、ザンギャックの官憲や軍人であったとしても、自分よりも弱そうな相手と見れば見境なしに襲撃して略奪していました。ダマラスに咎められても私掠対象と間違えただけだと嘯けば処分も受けず、略奪した品もザンギャックにとってどうでもいいような物であればそのままバスコの物となることが多いことも分かっていました。要するにバスコはこの4年ほどザンギャックの威を借りて小悪党としてやりたい放題の日々を送っていたわけです。

もともと自分の故郷を滅ぼしたのはザンギャック帝国であり、ダマラスはその際に自分の同胞を大虐殺した奴でしたから、バスコとしてはザンギャックやダマラスに従うことは決して嬉しいことではありませんでした。かといって別にザンギャックやダマラスを恨んで同胞の仇討ちをしたいなどという気持ちもありません。カリブ星の滅亡時にまだ赤子であったバスコにはそういう恨みの感情は実感として有りませんでした。
それよりも幼い頃からの世間一般の人々や、時には同じカリブ人の生き残りの者達からも向けられたバスコ個人に対する迫害や悪意などの方がバスコにとっては恨みがましい想い出であり、こうして立場が一変して自分がザンギャックの威を借りて人々を好きなように苦しめることが出来るようになって、バスコは実に痛快でした。かつて自分を蔑み排斥した世間の連中が自分によってやりたい放題にされる姿を見るのはバスコにとってささやかな復讐であったのです。
まぁ実際はバスコたちカリブ人を迫害するよう仕向けたのはザンギャック帝国であり、特にアクドス・ギル皇帝やダマラスなど帝国中枢の要人たちなのであり、一般人たちはそれに従わされていたに過ぎず、しかもバスコが面白がって傷つけた連中はかつてバスコを迫害した当事者たちですらないのだから、バスコの復讐心を満足させた行動などは単なる八つ当たりでしかないのだが、皇帝や帝国中枢などはバスコ自身の幼少時からの苦々しい記憶と直接関係は無く、彼の子供の頃からの苦々しい想いの根源となっていたのは世間全般の自分に向けた冷たさでありました。だからバスコは世間の冷たさを恨み、自分の苦い記憶の中にあるような普通の世間に向けた復讐によってこそ自分の気は晴れるのだと考えていました。

だが、面白がって略奪して世間の人々への復讐を実行しても結局バスコの気は晴れませんでした。バスコは世間の人々の自分を見る冷たい視線が嫌いだった。いや、厳密には自分が世間の人々から冷たい視線を向けられるような人間であることが嫌だったといえます。そして、いくらバスコがザンギャックの威を借りて世間を憎悪して復讐を果たしても、そうした状況は何も変わりません。世間はやはりバスコを嫌い、ザンギャックの威を借りる狐のような男だと内心蔑み冷たい視線を向けますし、バスコも自分が憎まれ蔑まれていることを自覚してしまいます。
そうして世間に復讐することの無意味を悟った結果、バスコは自分の幼少時からの心の闇を解消するために必要なことが何であったのか理解しました。それは世間に復讐することではなく、世間に認められることでありました。自分が世間から認められるようになれば、人々はもう自分を蔑んだ冷たい目で見ないであろうし、自分自身も世間の冷たさを気にすることもなくなり、幼少時からの嫌な気分も晴れる。
では、どうすればバスコが世間から認められることが出来るのかというと、普通はバスコ自身が心を入れ替えて世間の人々を愛し、親切に接することによって世間の人々のバスコへの評価を好転させていくという方法が一般的といえます。だがバスコは子供の頃から一切の愛情を受けずに育ってきたため、彼の心にはそういう考え方は全く存在する余地が無かった。
バスコの人間観は、あくまで人間は打算で動くというものでした。だから世間の連中が自分を認める場合というのも、それは自分が何か世間の連中が羨むような素晴らしい物を手にした時のことだろうとバスコは考えました。ザンギャックの後ろ盾というものがそれにあたるのかともバスコも一時は思ったのですが、どうもそれではダメなようです。これはあくまでザンギャックの権威を借りているに過ぎず、自分自身の力ではないから、だから世間の人々は自分のことを素晴らしいと認めないのだとバスコは思いました。やはりザンギャックとは関係無く自分自身が素晴らしく価値のある物を得なければいけない。だが、具体的にどうすればいいのかバスコにはよく分かりませんでした。

バスコがそのようなことを物憂げに思案していた頃、バスコの船にいきなり見知らぬ宇宙船が近づいてきたので停船させてきて、バスコがその船の乗員に何者なのかと糺すと、相手はカインと名乗る若い男で、ダマラス軍に出入りする宇宙実業家でした。何の用なのかと問うと、カインはバスコに依頼したいことがあって来たのだと言います。それを聞いてバスコは、商人が軍関係の仕事の受注競争を有利にするために私掠船の船長である自分にダマラス軍の情報を探らせようとしてやって来たのだろうと想像し、少しウンザリしました。
そういう商人たちというのは自分がザンギャック軍と繋がっているからこそご機嫌を取ってくるが、内心では自分をザンギャックの走狗と蔑んでおり、せいぜい上手く利用することしか考えていない。不愉快な奴らだが、それでも良い金ヅルにはなるので報酬次第では一応話は聞いてやろうと思い、バスコがカインを船に招き入れて依頼内容を聞いてみたところ、それは予想とはかなり異なるものでした。ザンギャック軍の物資を狙う賞金首の女盗賊が次に何処に現れるのか、ダマラス軍の内部の情報を秘かに探って自分に教えてほしいのだとカインはバスコに頼んだのでした。
提示された報酬額はかなり良いものでしたが、バスコはどうもカインの話が解せませんでした。どうして宇宙商人が盗賊の情報など知りたがるのか謎であり、特にザンギャックの官憲には秘密で情報を得ようとしているのがどうにも怪しい。これはあるいは犯罪に関わることなのではないかとバスコは思いました。といっても、もともと犯罪が服を着て歩いているような男であるバスコは犯罪に関わることを恐れているわけではない。ただ、犯罪のプロのような男であるからこそ、バスコは素人のような宇宙商人の思惑で事態をよく理解しないままヤバい犯罪に巻き込まれていくような無様なマネだけはしたくなかった。
何かヤバい話なのであれば、ちゃんとした説明を聞いて自分が納得した上でなければ、たとえどんな大金を積まれても仕事は引き受けられないと、バスコはカインに告げました。それでもカインはあくまで用心深く、自分がその女盗賊のルカと幼馴染であるということは明かしませんでしたが、さすがに自分が何をしようとしているのかについては説明しないことにはバスコを説得出来ないと思い、自分はその女盗賊を盗賊稼業から足を洗わせて連れて行こうと考えており、だからザンギャックの官憲に彼女が捕まる前に接触して盗賊を辞めるように説得したいのだと説明しました。
バスコはカインと女盗賊が男女関係にあるのかと考えましたが、実際そんなことには大して興味は無く、要は自分の持ちかけられている仕事がどれぐらい危ないものであるのか知りたかっただけでしたから、この説明で十分でした。要するに賞金首の女盗賊をザンギャックの官憲に捕まらないように逃がすことに協力するという仕事であるようでした。しかもその女盗賊はダマラス軍が追っている奴であるらしい。これはどうもヤバい仕事だとバスコは思いました。
普通の警察ではなくダマラス軍が追っているということは、その女盗賊は何かよほどのことをやってダマラスを怒らせたようであり、その女盗賊を逃がす手助けをしたとダマラスに知られれば、さすがに自分もタダでは済まないかもしれないとバスコは考えました。カインがなかなか事情を説明しようとしなかったのも、未だに何か隠している様子であることからも、カイン自身もこれがヤバい仕事の依頼だと理解しているから、事情を説明して断られるのを恐れているのだろうということもバスコには想像がつきました。

実際、常識的に考えればこの依頼は断る方が無難であろうと思えました。だがバスコはあえて自分にザンギャックへの裏切りのようなことを持ちかけてきたカインに妙に好感を抱きました。このカインという男はザンギャックの威を借りるだけの男としてではなく、ザンギャックとは別個の1人の人間としての自分を見込んで危ない仕事をやり遂げてくれるよう期待して頼んできている。この男は自分を1人の人間として価値を認めてくれている。そんなふうにバスコには感じられました。
もちろん、カインは自分のことをそんなに詳しく知っているわけではないのだろう。ここに来たのもたまたまなのだろうとバスコは思いました。もし自分がカリブ人だと知れば、このカインだって自分を侮蔑して嫌悪の視線を向けてくるかもしれないということもバスコには分かっていました。だが別にバスコは真にカインからの信頼を得たいと思っていたわけではないので、カインが自分に向ける期待が仮初のものであっても一向に構いませんでした。
少なくとも現時点において自分はザンギャックとは全く関係無く、ザンギャックを向こうに回して危ない橋を渡るパートナーとして、1人の人間としての価値を認められている。そう感じられることがバスコにはここ4年の間に感じたことがなかった心地よさであったのです。それでバスコはカインの依頼を受けることにしました。
まぁ実際バスコのやることは情報を集めてカインに渡すだけのことであり、その後でカインがしくじって捕まったとしても、自分がカインに協力したという確かな証拠を残さないように慎重に立ち回っておけば何とかしらばっくれて逃げおおせるだろうという読みもバスコにはありました。

そうしてカインに指定されたルカ・ミルフィという女盗賊に関する情報をダマラス軍の内部で調べ始めたバスコは、よくよく調べるとダマラス軍はルカによって貴重なエナジークリスタルを多数盗まれているという事実を知ることとなりました。しかもダマラスはその事実をダマラス軍以外の外部には知られないように隠蔽していました。
これは無理もないことだと、事情通のバスコには理解出来ました。ギガロリウムを精製するために必要なエナジークリスタルは皇帝の専有の最重要の戦略物資であり、それを盗まれたなどという不祥事が明るみに出れば、いくらダマラスといえどもタダでは済まない。おそらくダマラスは盗まれたクリスタルを軍の裏金でも使って内々に買い戻して何事も無かったかのように取り繕っているのであろうとバスコには想像がつきました。
実際、ダマラスはバスコの想像した通りの対処をしていました。つまり、盗品の転売屋がルカにエナジークリスタルの買い取り額を高く提示できた真の理由がここにあります。皇帝の専有物であるクリスタルを盗まれたという不祥事を公に出来ない軍の担当者が事件を内々で処理するために盗まれたクリスタルを盗品市場で高額で買い戻すしかないという弱みを転売屋は読み切っており、事件を公にしない口止め料も込みで法外な値段でダマラスにクリスタルを買い戻すように脅しをかけてきていたのでした。その結果、ダマラスは転売屋の言い値でクリスタルを買うしかなく、転売屋はルカに支払った買い取り額を遥かに上回る利益を上げることが出来ていました。
一方ダマラスは事件を公に出来ないため、クリスタルを買い戻すための金を軍の真っ当な予算から引き出すことも出来ず、こういう時のためにコツコツ貯めこんでいた自軍の裏金を吐き出して対処する羽目となり、大損害を蒙ることとなっていました。こうなればダマラスももうこれ以上クリスタルを盗まれるわけにはいかない。ルカに対する恨みを晴らすためにも、またダマラスがクリスタルを盗まれたという秘密を知る当事者であるルカの口封じのためにも、ダマラスは万全の態勢でクリスタルの警備を強化し、今度こそクリスタルを盗みに来たルカを返り討ちにして抹殺するつもりでいました。
ダマラス自身が警備にあたることが出来れば最強なのですが、ダマラス自身は相変わらず本星に足止めを余儀なくされてしまっており、輸送の現場は部下たちに任せねばならない羽目となっていました。しかし部下たちだけではこれまでにもルカに出し抜かれ続けてきたのであり、どうも心もとない。そこでダマラスは特殊部隊を応援部隊として使うことを思いつきました。
特殊部隊は確かに戦闘力は通常の輸送護衛部隊よりも高いが、本来は物資の輸送の警備などには当たらない。だが現在の特殊部隊は先の地球との戦争やその後は反逆者となった隊長(実はデッチ上げだが)の追討のために主要メンバーが出払っていて、ここ半年ほどは本来の特殊任務がこなせるような陣容ではなくなっています。それで数ヶ月前に配属された新人隊員たちも本来の任務に就くことが出来ず、かといって遊ばせておくわけにもいかないので研修も兼ねて適当に要人や物資の警護の仕事に就かせていましたが、その能力が非常に高いと各所で高評価を得ていました。
特に目立っていたのは養成所をトップの成績で卒業したジョー・ギブケンという兵士であり、物静かで陰のある性格のためチームを束ねるリーダーというタイプではなかったが、とにかく新人にしては滅法腕が立つとのことであり、揺るぎない闘争心と帝国への忠誠心を持っているらしい。こういう単純な戦闘マシーンのような男は扱いやすいし、今回のような任務には最適だろうと思ったダマラスは、皇帝の最重要兵器ギガロリウム砲に必須の戦略物資であるエナジークリスタルを盗賊から守る重要任務だと言って特殊部隊にジョーを中心とした精鋭部隊の派遣を要請したのでした。

0148.jpgこの年19歳を迎えるジョーは数ヶ月前、遂に念願の特殊部隊への入隊を既に果たしていたのですが、ジョーの入隊時は幼少時からの兄貴分であり剣の師匠である特殊部隊のエースのシド・バミックは地球方面の戦役に出ており、特殊部隊本部には不在でした。
といってもジョーはシドが地球に行っていたことは知りません。まだ新人隊員であったジョーにはシドの特殊任務地が何処であるのかという機密事項は簡単に教えられるような制度にはなっていなかったのです。そもそもザンギャックが地球と戦争したこと自体、新人のジョー達には教えられませんでしたし、その後もまさかの敗戦によって地球との戦争のことは非公開情報扱いとなってしまったため、ジョー達は知らされていません。
だから当然、ジョーはシドが開戦早々に地球でアカレンジャーこと海城剛に敗れて重傷を負い戦線離脱したという事情も把握はしていませんでしたが、それでも任務先でシドが負傷して病院に収容されていることや、他の派遣された精鋭隊員たちの全員が殉職、そして信じがたいことだが隊長が反乱組織に内通して裏切ったという特殊部隊関連の情報は最近になってジョーの耳にも届くようになってきました。そのどれもがジョーにとっては驚くべき情報でしたが、更に追加で知った情報によれば、怪我が癒えたばかりのシドが本部に戻るヒマも無くそのまま隊長の追跡メンバーに加わることになったとのことでした。
ジョーは悔しい気持ちになりました。養成所で厳しい訓練に耐えてきたのも、激務を承知で特殊部隊に志願したのも、特殊部隊に入隊した暁にはいよいよシドと共に帝国の平和を守るために戦うという子供の頃からの夢を実現するためでした。ところが入隊して数ヶ月、未だジョーはシドと顔を合わすことさえ出来ておらず、シドのように帝国防衛の最前線で戦うことも出来ず、つまらない仕事ばかりさせられている。
よりによってタイミングが悪すぎるという不満も当然内心渦巻いていましたが、ジョーはそんな不満に浸ってばかりいても自分が腐っていくだけだと思い直し、全ては自分の精進がまだ足りないせいなのであり、実績を上げて認められればきっとシドの居る、帝国を守るために巨悪と戦う最前線にも送ってもらえる日が近づくと信じて、今はとにかく自らを鍛え続け、どんな仕事でも全力で取り組もうと考えました。

そうしたところに特殊部隊を管理する部局からジョーを含む新人隊員の精鋭たちにザンギャック本星の総司令部に来るようにという命令があり、ジョー達はさっそく本星に行き、管理官に連れられて総司令部に到着すると、そこで待っていたのは参謀総長のダマラスでした。
ジョーがダマラスを生で見たのはこれが最初のことでしたが、ダマラスの顔を見るのはジョーにとってはちょっとした感慨のあることでした。最近の若い兵はかつての英雄であるダマラスの名もあまり知らなくなっていましたが、ジョーは事情通のシドから帝国最強、いや宇宙最強の戦士といえばやはりダマラス参謀総長だろうということを教えられていました。その時ジョーはシドこそが宇宙最強だと思っていたので、そのシドにそこまで言わせるダマラスという男のことが印象に残っていたのです。
そのダマラスを初めて生で目撃することになり、ジョーはちょっとした感動を覚えつつ、どれほどの戦士であるのか雰囲気から推し測り、遠目で見てもその闘気は尋常ではなく、ジョーはシドよりも強さを感じた相手は初めてだと感心しました。さすがはシドが宇宙最強と認めるだけのことはあると思いダマラスを畏怖したジョーでしたが、ジョーとダマラスの間で会話は一切ありませんでした。新兵と参謀総長が気軽に会話を交わすなど有り得ないことでした。
ジョー達はただ単にダマラスからの命令を受けるためだけに総司令部に呼ばれたのであり、ダマラスと直接言葉を遣り取りしていたのは随行の管理官であり、ジョー達は離れた位置に直立不動でその遣り取りを黙って聞いているだけでした。それによると、また物資輸送の警備を命じられるようでしたが、どうしてわざわざ参謀総長が直々に指令を下すのかジョーにはよく事情が分かりませんでした。
後で管理官に更に詳しく説明を受けたところ、皇帝の管理する最強兵器ギガロリウム砲に欠かせない戦略物資であるエナジークリスタルを守る重要任務なので参謀総長が直々に指令を下したのであろうとのことでした。分かったようで分からない説明でしたが、とにかくそれほどの重要任務を成功させれば自分も一人前扱いとなりシドの居る最前線へ行くことが許されるのではないかと思ったジョーは張り切りました。
任務はそのクリスタルを常習的に狙う不逞の盗賊の襲撃からクリスタルを守り、今後の憂いを断つためにその盗賊を返り討ちで始末するようにということでした。逮捕する必要は無く、その場で殺害するようにという、この手の仕事にしてはちょっと珍しい命令でしたが、それほど悪質な盗賊なのであろう。そう思って、手渡されたその盗賊の手配書を見たジョーはその盗賊ルカ・ミルフィが若い女であり、しかも結構な美女であることを意外に感じて驚きました。
だが、外見とは裏腹にルカというのはかなり凄腕の盗賊であるらしい。何処でどう歪んでこんな可愛い娘がそんな悪党に堕ちてしまったのだか、全くもったいないと、他の仲間たちもからかうように言いますが、女だからといって甘く見ると危険だということは承知しており、変な感情は差し挟まず淡々と指令を実行する態勢に既に入っています。
ジョーも早く本格的に帝国を脅かす悪と戦いたいのであって、ハッキリ言ってコソ泥の始末などはもう飽きており、ましてや女を斬る仕事など乗り気にはなれなかったが、軍人として命令に従うことで自分のステップアップを図るチャンスとして、とにかく今回は特に本気で取り組み、ルカとかいうその女盗賊には悪いが、自分の手で斬って手柄を上げさせてもらうと、ジョーは心に期すのでした。

そのルカの方ですが、既に盗んだ多くのエナジークリスタルで転売屋から多額の金を得て、貯金額を飛躍的に増やしていましたが、星を買い取るという心に期した夢の実現のためにはまだまだ全然足りない。しかし、このペースで儲け続けていけば夢の実現は決して不可能ではないと考えたルカは転売屋にしつこく次のエナジークリスタルを盗むチャンスは何時なのかと問い合わせていました。ところが転売屋の態度がどうも煮え切らないので、ルカは転売屋が自分を袖にして別の盗賊にエナジークリスタルの仕事を回そうとしているのではないかと疑い、転売屋のところに押しかけてゴネまくり、仕事を回してもらうまで居座ると喚いたので、転売屋も困ってしまい、ルカに事情を説明しました。
それによると、エナジークリスタルは今の時期だけ限定で輸送経路に乗っている品であり、もう残りは僅かであるとのことで、ラストチャンスは(地球暦で)2012年3月末のとある日にザンギャック軍の管理する星の武器倉庫に運び込まれる分だけだという。そこには残ったクリスタルが全て、十数個集められ、盗むとしたらこの日に此処を襲うしかない。だが、これほど大量のクリスタルを1ヵ所に集めるのは不自然で、これは盗賊をおびき出すための罠である可能性が高い。調べてみたら案の定、警備はいつもより更に厳重で、しかも特殊部隊まで出張ってくるという。だからこの仕事は失敗の危険性が高く、ちょっとお勧め出来ないので、あえて教えなかったのだと転売屋は言いました。
その言葉に嘘は無いようだとルカには感じられました。確かに警戒は厳重で困難な仕事になるのだろう。しかし、それでもこれはやっと掴んだ夢を実現するステップなのです。夢の実現のためには多少の危険で簡単に引き下がるわけにはいかない。その十数個のクリスタルを手に入れれば、更に夢の実現が近づくのであり、その機会を諦めるのはあまりに惜しい。
ルカは不敵に笑って、自分の腕は知っているはずだろうと転売屋に言い、特殊部隊など簡単に出し抜いてみせると胸を張りました。だが転売屋は呆れたように首を振り、ルカは特殊部隊のことを知らないからそんな呑気なことを言うのだと笑いました。ルカが根拠の無い自信を振りかざすのを見て、転売屋の情報力を誇示して対抗したくなったようです。転売屋は自分はちゃんと調べたのだと言い、特殊部隊がいかに狡猾で無駄の無い作戦行動をとる、まさに盗賊にとって最悪の相手であるのかを説明しました。
それに対してルカはイザとなれば自分の武力で劣勢をひっくり返してみせると強がりを言ったので、転売屋は鼻で笑いながら、今回の特殊部隊にはルカ以上の武力を持つ剣の達人がいるのだと指摘しました。それはジョーという名の特殊部隊の新人だが、帝国一の剣の達人の直弟子であり、銃を手にしながら滅多に使うことはなく剣だけであらゆる敵を倒してきたとんでもない手練れだという。
転売屋は他の物資輸送現場でのジョーの武勇伝などの情報を早くもしっかり収集しているようで、その情報は詳細で正確でした。転売屋はまるで自分のことであるかのように得意げに、ジョーが剣1本で戦ってもルカの全力とは互角程度で、もし銃まで使えばルカの劣勢は間違いなく、ジョー本来の二刀流の型をとることになればルカに勝ち目は無いと言いました。ジョー1人相手でもそんな状態であるのに、更に他にもそれと大差ない特殊部隊の精鋭が多数おり、他の警備兵も増員され、特殊部隊がとっておきの罠を仕掛けている中、ルカがエナジークリスタルを盗み出して生還する可能性はほぼゼロだと転売屋は言い切り、ルカに思いとどまるよう言いました。
0146.jpgルカはそこまで言われて仕方なく引き下がり、転売屋のもとを立ち去りました。確かに転売屋の言うことは尤もであり、ルカとしても反論することは出来なかったので引き下がるより他なかったのです。だがそれはあくまでその場で転売屋を言い負かすことを諦めただけに過ぎず、ルカは決してエナジークリスタルを盗むことを諦めたわけではありませんでした。
倉庫の場所やクリスタルが運び込まれる日時は聞きましたから、ルカの独断で盗みに入ることは不可能ではない。ただ、その場合は明らかに転売屋との契約違反の仕事ということになります。例えば他の盗賊が盗みに入ると転売屋と契約している場所にその情報を盗み聞きした別の盗賊が先に押し入ってブツを横取りするようなものであって、通常はそんな反則技で盗んだ品は転売屋に買い取ってもらうことは出来ない。だが今回は他に盗む予定の者がいるわけではないし、ブツがとっておきの高価な品だけに、結果的に盗み出すことに成功すれば転売屋も買い取りに応じるはずだとルカは考えました。

さて一方、ダマラス側の動きを探っていたバスコは、ダマラスが3月末のとある日に残ったエナジークリスタルをある星の倉庫に集めてルカをおびき出し、特殊部隊をぶつけて始末しようとしていることを知りました。どうやらダマラスは不祥事の口封じのために本気でルカを殺しにかかっているようだと察したバスコは、もしルカが現れるとすればこの日この場所であろうが、もしそこに現れればルカは確実に死ぬことになるだろうなと思いました。
ただ、別に何の感慨も無い。会ったこともない女盗賊が殺されたところでバスコには何の関係も無い。バスコがカインに依頼されているのはルカの出現予測情報を調べて教えることだけであり、別にルカを助けてほしいなどとは依頼されてはいない。仮にカインが報酬額を釣り上げてルカを助けてほしいと依頼してきても、バスコとしてはそこまでのリスクを負うつもりはありませんでした。自分はただ単にルカがこの日にここに現れる可能性が高いということをカインに教えるだけであり、もし予想通りにルカが現れればその場でルカは死ぬことになり、もしかしたらカインもそこに行けば一緒に死ぬ羽目になるかもしれない。そうなったとしても、先に報酬さえ貰っておけば、バスコは何ら困ることはない。
だがカインのことはまんざら知らない相手でもないし、一応自分が好印象を持った珍しい相手でもあるので、みすみす何も言わずに死地に行かせるのは少し後味が悪い気がしたバスコは、少し忠告ぐらいはしておくのも悪くないと思いました。

バスコはカインに会い、ルカがエナジークリスタルを狙って現れる可能性の高い日時と場所を教えました。カインは喜んでバスコに感謝の言葉を述べ、ちゃんと報酬をその場で払いました。それを受け取った後、バスコは自分に協力出来るのはここまでだと釘を刺した上で、そこはルカを始末するために特殊部隊が罠を仕掛けている場所であり、行けばカインも死ぬことになるから、悪いことは言わない、行かない方がいいと、カインに忠告しました。
だがカインはニッコリ笑って忠告ありがとうと言うだけで帰ろうとするので、バスコはカインが忠告を無視してあくまでルカに会いに行こうとしていると悟り、どうしてそこまでするのかと質問して、カインを呼び止めました。カインは何だかんだ言ってここまで調べてくれた上に親切に忠告までしてくれたバスコのことを信用するようになっていましたので、バスコのその質問に対して正直に、ルカは同じ夢を掴むための仲間だからだと答えました。
バスコはカインが単にルカという女盗賊に惚れているか何かだと思っていたので、夢という意外な言葉がカインから返ってきて戸惑い、夢とはどんな夢なのかと問い返しました。カインはバスコへの感謝の意も込めて、素直に自分の生い立ちやルカとの幼馴染としての繋がりを説明し、自分とルカの夢がお金を貯めて星を買い取って、そこを親を亡くした子供たちがザンギャックの暴虐におびえず笑顔で暮らせる世界にすることなのだと説明しました。
しかし、バスコは臆面も無く夢を語るカインの顔を見て、あまりに滑稽で思いっきり吹きだしてしまいました。いったいどんな夢なのかと思えば、何という甘っちょろい幼稚な夢なのかとバスコは呆れたのです。そんな夢のためにカインはザンギャックの御用商人となり、ルカは盗賊になったというのですから、これは救いようのないバカどもだとバスコは可笑しくてたまらなくなりました。

バスコは腹を抱えて笑いながら、そんな甘っちょろい夢が実現するわけがないだろうと嘲笑いました。まず星を買うほどの金がそう簡単に貯まるはずもない。それまでにカインは没落するかもしれず、ルカは捕らわれて処刑されるのがオチだとバスコは思いました。いや、もし星を買うことが出来たとしても、その星が子供たちの笑顔で満ちる楽園になることなど有り得ないとバスコは確信できました。
このザンギャックの支配する宇宙でそのような楽園が存在を許されるはずはない。きっと難癖をつけられて潰されるに決まっている。そんな楽園などこの宇宙では幻想に過ぎず、そんな不可能な夢を叶えるためにカインとルカは現実問題としてザンギャックに寄生して、間接的に人々を苦しめているに過ぎない。そんなことは全く本末転倒であり、無意味だとバスコはカインに指摘しました。
意地悪な性格のバスコはずいぶんとボロカスにカインの夢を罵倒したのであり、カインは感情的になっても仕方ない場面でした。だがカインは意外にも穏やかな態度でバスコの言葉を受け止め、確かにその通りかもしれないと言いました。不可能で無意味な夢なのかもしれない。そんなことは2年前にルカからその夢を聞かされた時にカイン自身が真っ先に気付き、ルカの夢を否定しました。確かにその時のカインの分析は今のバスコの分析と同じく、正しかったのかもしれない。
だが、その時カインの選んだ道は結局は相変わらずスラムで希望の無い日々の中で燻り続けるというものでした。あのドン底の生活を送っていたカイン達にとって、現実的判断をしてその最低の生活に燻り続けるという選択こそが実は無意味であったのではないか。無茶な夢でもなんでも、とにかく何かを目指して立ち上がらなければどうしようもないのがスラムの住人というものだった。
カインは当初はそのことが分からず、中途半端に頭が切れるものだから、ルカの夢の不可能で無意味なことを分析してダメ出しをしただけだった。だがルカが星を飛び出していったことにショックを受けて、ルカを取り戻したい一心でルカの夢を叶えようとして行動を開始した結果、カインは無茶な夢を目指すのも悪くないと気付いたのです。
あるいは最終的には叶わない夢なのかもしれないが、とりあえず上手くやればさしあたり星を買うという目標までは達成出来そうな気はする。そして星を買った段階でまたその先の段階をどうするか、どうやって子供たちを集めるか、どうやってザンギャックに邪魔されないように持っていくか、またその時その状態なりに新たな知恵も湧いてくるであろうし、その時になれば今とは世間の状況も変わっているかもしれない。
そういう考え方はスラムで何が不可能なのかというマイナス思考に固まっていた頃には出来なかったことで、夢に向かって行動を開始してみてからこそそういうポジティブで意外に現実的な臨機応変な考え方というものは持つことが出来た。とりあえず出来ることからやり始めて、決して最終目標を諦めずに夢に向かって進むことを止めなければ、一見不可能で無意味に思える夢も、案外実現は可能であるように思えてくる。
とにかくそう思うことが出来れば、人間は夢に向かって突き進むことは出来る。最終的には叶わないかもしれないが、とにかく夢は叶うと信じて突き進むこと自体が大事なのです。何故なら、そういう突き進むための活力の源という意味でこそ夢はその人の人生にとって決して無意味ではなく、重要な意味を持つものになるからです。
そのことにカインは気づいた。いや、カインのようなドン底に喘いでいたスラムの住人だからこそ気付くことが出来たのだといえます。それまでスラムのお先真っ暗な生活の中で自分がこの世界に生まれてきた意味を見出せないでいたカインが、この一見不可能な途方もない夢を叶うと信じることが出来るようになって、その時、初めて自分がこの世に生まれてきた意味を見出すことが出来たような気がしたからです。
スラムのドン底で生きていた自分は、夢を信じてこの手で掴むと決めたことによって、初めて自分の生まれてきた意味、自分という人間の価値を見出すことが出来た。確かにバスコの言うようにこの夢は叶わない可能性も高い。だが、自分は自分という人間のこの宇宙に存在する価値を信じる。そのためにはこの夢は叶うと信じる以外に選択肢は無い。そして、この夢はもともとルカの夢であり、自分の夢はルカの夢と不可分であり、この夢はルカと一緒に叶えなければ意味は無い。だから自分はどんな危険が待っていようともルカに会いに行き、きっとルカを連れていくのだと、カインはバスコに向かって堂々と述べたのでした。

そのカインの言葉はバスコの胸を抉りました。いや、最後の方のカインとルカの共に夢を掴む仲間の絆の話はバスコには理解出来ないし興味も湧きませんでしたが、その前のあたりの、カインにとって夢こそが自分の人生の価値そのものであるという話がバスコ自身の目下の悩みとシンクロする話であったのです。
バスコは自分という人間の価値を世間の連中に認めさせるために何が必要であるのか分からず苦悩していました。それは詰まるところ、バスコ自身が自分の価値を信じていない、いやそもそもバスコ自身が自分という人間の存在価値が分かっていないことが原因でした。物心ついた頃から誰の愛情も受けることなく、世界中から不要なもの、滅ぶべきものとして迫害に晒され続けてきたのだから、バスコ自身が自分の存在価値が分からないのも無理はない。しかし自分で分からないものを他人に理解させることなど出来るわけはない。その結果、バスコの「世間に自分の価値が理解されない」という心の闇が晴れることはない。
それを解消するためには、まずバスコ自身が自分の生きている価値が何なのか知らねばならない。だが、誰にも打ち明けることの出来ない宇宙でも最悪最底辺の出自であるゆえに、バスコには自分自身の生まれた価値など全く見当もつかない。その袋小路を突破するカギが「夢」であることがカインの話によってバスコには理解出来たのです。
スラムのドン底に沈んで腐っていたカインが自分の生きる価値を見出すことが出来たのは、スラム出身者には全く不似合いな大それた夢を掴めると信じて行動を起こしたからでした。現実に夢が叶うかどうかは不明だが、少なくとも現在のカインはスラム出身などとは想像も出来ないほど人生が一変している。カイン自身、夢を信じることで自分の価値を信じており、世間の人々もカインに価値を感じているからこそ、カインの商売は順調なのでしょう。そのようにカインがかつての自身の闇を解消出来ているのは間違いない。それはもともとはカインが夢が叶うと信じたことから始まった大いなる変化なのです。
夢が本当に叶うかどうかは実は本質的な問題ではなく、夢は叶うと信じて行動することによって人間が自分の価値を信じて人生の闇を解消することが本当に大切なことなのだということをバスコはカインの話によって気付いたのでした。そして、そうした夢は自分やカインのような絶望的な境遇に生まれて心の闇に押し潰されてしまったような者にこそ必要なことなのだとバスコは思いました。

バスコはカインの話を聞き終ると、しばらく黙って考え込んでから、カインに向かって確認するように、夢を掴もうとすれば自分の生まれた価値が分かるようになるのかと問いかけました。カインはそうだと答えましたが、バスコは別にカインの答えを期待していたわけではないようで、むしろ自分自身の心に問いかけたようなニュアンスであったようで、カインの言葉は耳に入っていない様子で再び黙り込んで考え込みます。
カインはバスコの生い立ちなどは全く聞かされていませんでしたが、バスコの異様な様子を見て、もしかしたらバスコも自分と同じ帝国の最底辺の闇に生まれ、未だにその闇に苦しんでいる者なのかもしれないと感じました。一方バスコは自分の心の闇を振り払って自分の価値を自分が認めるようになるような「夢」とはいったいどんな夢なのだろうかと思案していました。
例えばカインの夢はどうだろうかと考えたバスコは、それでは全然ダメだと思いました。やはり自分はカインのようにその夢が実現すると信じることは出来そうにない。どうしてなのかと考えたバスコは、おそらく自分はその「星を買って子供の笑顔で一杯にする」という夢に全くワクワクしないからだろうと結論づけました。自分の心がワクワクする夢であれば、実現不可能と思われる状況でもあえてその夢を信じようという気持ちが湧き上がってくるだろうが、ワクワクしない夢は不可能なものはどうしても不可能だとしか思えない。
どうして自分がカインの夢にはワクワクしないのかというと、それは個人の嗜好の違いもあるであろうし、生い立ち的にも仕方ないと思えた。カインはもともと子供たちと深く接してきた生い立ちだから子供の笑顔で溢れた星という夢にワクワク出来るのであろうが、自分はそんなものには縁が無い人生を送ってきたのだからそんな夢にワクワクしないのは当たり前だ。
考えてみればカインはドン底とはいってもまだ救いのある人生を送ってきたのだなとバスコには思えました。子供たちやルカのような恋人(とバスコは思い込んでいる)にも恵まれて、その結果こんな他愛のない夢にワクワク出来る温かい心がちゃんと残っていたのだ。それに比べると自分の心の闇はカインの比ではないとバスコは思いました。自分にはそんな温かい仲間など居たためしがない。生き延びるためには仲間ですら売り飛ばすのが当たり前の苛酷な人生の中でバスコの心はすっかり凍てついていました。
しかし、そんな自分でもそんな自分なりに何かワクワクする夢が存在するはずだとバスコは諦めずに考え込みました。自分はカインとは違い、気が付けば孤独な海賊のような生活を送っていた男だから、そんな人生に見合った何かワクワクする夢があるはずだ。これほど心の闇が絶望的に深い人間もこの宇宙に他にいないであろうから、その宇宙で最も深い心の闇を振り払うようなワクワク感というのは、宇宙最大のワクワク感であるはずだ。

そう考えた時、バスコはかつてダマラスと出会う前の若かりし頃の自分がそんなような物を追いかけていたことを思い出しました。その頃のバスコは「宇宙で一番」や「宇宙最大」などの謳い文句の物に異常に執着を示し、宇宙最低の境遇にある自分を世界に認めさせるためにはそうした称号を自分が手に入れる必要があるなどと思い込んで暴走していた。
今となっては若気の至りだったなどと当時の自分を冷笑していたバスコであったが、実際は現在の分別臭くなって闇に沈んだまま動こうとしない自分よりも当時の自分の方がよほど真摯に自分に向き合おうとしていたようだとバスコは思いました。当時の自分は一見したところ若気の至りで短絡的な行動をしていたように見えるが、無意識的に自分の心を闇から救い出して自分の生きる意味を実感させる夢を探していたのです。それこそが「宇宙で一番」や「宇宙最大」の称号を持った何かを得ることであったのです。
それらは直接的に他人に認められるための物なのではなく、宇宙最低の境遇に沈んでいた自分自身がワクワクして叶うことを信じたくなるような、ドン底でも自分の可能性や価値を信じたくなるような、この宇宙で数少ない夢の候補たちだったのです。そして、それらの中でも当時の若かったバスコの心に最も強い印象を残していた物は、この宇宙全体と同じ価値を持つという宇宙海賊の伝説の宝である「宇宙最大のお宝」でした。
昔から海賊が誰もが憧れていながら誰もそれを手に入れたことがないというその伝説の宝は、所詮は伝説であって実在はしないのだと今ではバスコは世間並みにそう納得していました。だが本当はそうではない。自分が叶うことを信じてワクワクすることが出来る唯一最高の夢が、その「宇宙最大のお宝」なのです。
その夢を掴むことが出来ると信じることによってのみ、自分は心の闇を振り払って自分のこの世界に生まれてきた価値を知ることが出来る。だから自分は誰もが伝説だと一笑に付す「宇宙最大のお宝」が実在すると信じて、それを手に入れるために行動を起こすべきだったのだとバスコは稲妻に撃たれたように閃いたのでした。
その結果、バスコは生まれて初めて身体の芯から熱いものが込み上げてきて、鼓動が高鳴り、ワクワクした気持ちになってきました。夢を持つというのはこういう感覚なのかとバスコは感動し、目を見張りました。

そのバスコの尋常でない様子は無言のままではあっても明らかにカインにも観察出来たので、カインは何故だか詳細は不明だが自分の言葉がバスコの心に大きな変化をもたらしたようだと感じました。あるいはバスコもまた悲惨な境遇の中で夢を持てずに闇に沈んでいた者であったが、自分の言葉で夢の必要性に目覚めたのかもしれないと思ったカインは、思い切ってバスコに声をかけ、よかったら自分と一緒に来ないかと誘ってみました。
自分やルカと一緒に星を子供たちの笑顔で一杯にする夢を目指してみないかと、カインはバスコを信頼できる男だと見込んで誘ってみました。その言葉で我に返ったバスコはニヤリと笑うと、見くびるなよと憎まれ口を叩き、俺の心の闇は宇宙一深く、その闇を払うにはその程度の夢では足りないと言いました。
カインが驚いて、どんな夢なら足りるのかと問うと、バスコは「宇宙最大のお宝」だと答えました。しかしカインは海賊ではないので「宇宙最大のお宝」と言われても何のことか分からずキョトンとしています。そんなカインにニッコリ笑いかけると、バスコはとにかく俺はお前とは一緒には行かないと伝え、続けて、だがもうザンギャックとつるむのもやめたと言ったのでした。
「宇宙最大のお宝」を手に入れるという夢が定まった以上、その困難な夢を実現するために全力を注がねばならない。ザンギャックの手先となって使われているような場合ではないとバスコは考えたのでした。ただでさえ所詮はザンギャックの走狗として蔑まれるだけの生活には飽き飽きしていたところです。これを機会にスッパリとザンギャックとは手を切らせてもらおうとバスコは決意しました。
その上でバスコはカインに向かって、だから最後にちょっと手伝ってやってもいいと申し出たのでした。バスコが「宇宙最大のお宝」という夢を持つことが出来たのはカインの言葉のお蔭でした。だから感謝のしるしに最後にちょっとぐらいは手助けしてやってもいいとバスコも思ったのでした。
どうせザンギャックとは手を切るつもりだったので、多少ザンギャックを怒らせるようなことをするのは平気でしたし、「宇宙最大のお宝」を目指すといっても現時点ではそれが何処にあるのか全く見当もつかないので差し当たりはバスコはヒマでした。ならば一応感謝している相手であるカインが死なずにルカという女と再会できるように手助けしてやってもいい。どうせこのまま放っておいてもカインは危険な現場に飛び込んでいくだろうから、一緒に行ってカインとルカが死なずに済むようにしてやろうとバスコは考えました。

そうして地球暦で言えば2012年の3月末のある日、ダマラス軍が十数個のエナジークリスタルをある星の倉庫に運び込み、ルカを誘い込む罠を仕掛けて待ち構える態勢を整えた日、バスコとカインも荷物を追ってその星にやって来て、倉庫の近くに潜んでいました。そうしてバスコはカインを倉庫の近くに森の中に停めた宇宙船の中に待機させておき、単身で倉庫の近くに忍び寄りました。
バスコがカインの手助けをしようと思ったのは、バスコという人間にしては極めて珍しい善意の思いつきであり、かなり気まぐれの産物であったので、別にバスコとしては全てを賭けて戦おうなどという気持ちは無い。自分が危なくなればすぐに逃げるぐらいの心づもりでしかありません。だから特殊部隊とまともに戦って倒そうなどという気持ちはバスコには無い。それでも、もし特殊部隊が案外大したことがない連中であれば楽に勝てるのだから戦ってもいいと思い、バスコは警備状況の品定めのために倉庫に近づいてコッソリと観察しました。
観察してみると、やはり希望的観測は裏切られ、警備はかなり厳重であることが確認された。特殊部隊員も結構な手練れ揃いであるようでした。特に若い長髪の不愛想な感じの男が目につき、これはバスコも人間態のままでは勝てるかどうか分からないぐらいの達人であるように見受けられます。もちろんバスコがカリブ人の完全態に変身すればこれら特殊部隊の猛者たちも一蹴できます。だが、バスコはよほどのことがなければ自分の正体を人前で晒すようなことはしないと決めていました。
気まぐれでカインを手伝うとは決めたものの、自分の正体を晒すリスクまで冒すつもりはバスコには全くありませんでした。かといって、人間態のままで命懸けでこの特殊部隊の猛者たちとまともに戦うというリスクも冒す気は無い。特殊部隊が予想に違わず精強であることを確認したバスコは当初の方針通りにいこうと決意しました。

バスコの計画とは、ルカが倉庫に忍び込む直前に制止するというものでした。ただ、ルカが何時どこから現れるのか分からないので、あるいは倉庫への潜入までは止められないかもしれない。相手はプロの盗賊ですからその可能性も高い。ただ、それでも最悪でも潜入直後、特殊部隊の動きを見ればルカが潜入したことは察知できるし、潜入場所も特定できるだろう。
その場合バスコがそこに急行しても既にルカは特殊部隊と交戦しているかもしれない。ルカに勝ち目は無いであろうが、それでもなかなかの猛者であるようなのでバスコが駆けつけるまでは持ち堪えているであろう。そうなればルカを助けて一緒に特殊部隊の追撃を避けて逃げるぐらいのことは人間態のままのバスコでも何とかなる。
問題はルカがあくまでクリスタルを諦めずに前に進もうとすることであるが、ルカがクリスタルを狙う理由が金を貯めて夢を叶えるためであるとハッキリしている以上、説得は可能だとバスコは読んでいました。幼馴染で元恋人(とバスコが勝手に思い込んでいる)のカインが大富豪になっておりルカの夢を一緒に叶えようとしているということを伝えれば、ルカも命懸けでクリスタルを盗み出すことに執着しないはずであり、一緒に逃げてカインの待つ場所へ向かうことを承知してくれるはずだというのがバスコの計算でした。
出来ればルカの潜入前、特殊部隊との交戦開始前にルカを見つけて説得したいところでしたが、最悪は特殊部隊との交戦が始まった後でもルカを説得して連れ出すことまでなら可能、そういう自身の方針を頭の中で確認しながらバスコは手配書に載ったルカの顔写真を目に焼き付けました。

そうして倉庫のすぐ外の物陰にバスコが潜んでいたところ、空から何かが倉庫に近づいてきました。それは猛スピードで突っ込んでくる宇宙船でした。バスコはこれまでの事件の手口を調べた結果から推測してルカはコッソリと忍び込んでくるものだと思っていたので、まさかそんな大胆不敵な正面突破を仕掛けてくるとは予想していませんでした。
慌てて振り向いた時にはその宇宙船は尖端から突き出した長大な剣のような衝角で倉庫に突っ込んでおり、それによって倉庫に開いた大穴に向かって、その宇宙船から赤い人影が飛び込み、倉庫内に侵入していくのが見えました。そしてその宇宙船はすぐに衝角を抜いて浮上すると、特殊部隊の隊員たちが乗ってきていた宇宙船が迎撃のために飛び上がる機先を制して、停機中の特殊部隊の宇宙船群に対して上空から猛然と砲火を浴びせました。上空の宇宙船が地上にある警備側の宇宙船群を叩いている間に、最初に宇宙船から倉庫に侵入した者が倉庫内で何かを盗み出し、盗みを終えた後は再び宇宙船に乗り込んで逃走するという作戦のようです。
バスコはこの侵入した者こそがルカだと思いました。あまりに手口が大胆であることや共犯者がいることなど、過去の事件のルカとはどうも様子が違うが、ここにエナジークリスタルがある以上、当然侵入した者はルカだと思ったのでした。
また、そう思ったのはバスコだけではない。倉庫を警備していたジョー達特殊部隊員たちもまた、ダマラスが予告した通り、侵入してきたのは女盗賊のルカなのだと判断し、あまりにデータに無い予想外な大胆手口に迂闊にも侵入は許してしまったものの、侵入したのはルカ1人である以上、慌てずに倉庫内で取り囲んで仕留めようと冷静に判断し、素早い行動を開始しました。
バスコもまた特殊部隊の動きを見て、ルカの居場所を特定して素早くそこに先回りして、まずはルカに事情を説明して脱出するよう説得しようとしました。そうしてバスコがジョー達よりも一瞬早く、倉庫内の一角で侵入者に追いつき、声をかけようとしたところ、どうも様子が変だと気付きました。その侵入者は女盗賊ではなく、全身真っ赤なスーツを着込んだ男であったのです。

バスコが唖然としていると、そこにジョーたち特殊部隊員たちが乱入してきて、慌ててバスコは物陰に隠れて様子を窺うこととなりました。ジョー達も相手が女盗賊ではないことに気付き驚きますが、とにかく大胆不敵な侵入者であることには違いない。ジョーは赤い男に向かって何者なのか糺しますが、相手は黙ったままです。エナジークリスタルを狙って来たのかと問いかけても無反応で、何も答えるつもりはないようです。
ならばこちらも問答無用だとジョーは思いました。どうせ女盗賊の一味に決まっている。女盗賊は殺すように命令されている以上、その仲間も問答無用で殺しても構わないはずだ。だが、女盗賊を殺すようにと命令を受けている以上、ここでこの赤い男を殺してしまうと女盗賊が今どこにいるのか分からなくなってしまう。もしかしたらこの赤い男は囮である可能性もある。何にしても生け捕りにして女盗賊の情報を聞きださねばならない。
そんなことを考えて一瞬、ジョー達の動きに迷いが生じたその瞬間、その赤い男は特殊部隊員の群れの中に飛び込んできて、何時の間にか手にしていたムチの一閃であっという間にジョーを含む多くの隊員たちを弾き飛ばしてしまいました。

ジョー達も、そして物陰からそれを見ていたバスコも仰天しました。特殊部隊の兵士たちは生体改造は受けていないが、もともと生身でもゴーミンに勝る飛び抜けた格闘能力を持った者たちであり、そういう者達が任務中は特殊装備を装着することでスゴーミンを超える戦闘力を発揮します。
シドぐらいのエース級となれば特殊装備装着時は行動隊長クラスをも超える戦闘力となりますが、この場に来ている新人隊員たちはせいぜいスゴーミンより少し上ぐらい、しかしそれでも数が多いのでかなり手強いはず、そしてこの中では最強格のジョーの場合は特殊装備を装着することで行動隊長に近い力を持っているはず、つまりここにいる特殊部隊のチームは戦場の第一線で戦う精鋭部隊と同等ぐらいの力があるのです。
確かにジョー達の心に一瞬の迷いが生じた瞬間を狙った攻撃ではあったが、まずその一瞬の隙を突くことが出来ること自体が凄い上に、たとえ隙を突いたにせよたった1人でここまで一方的に圧倒するというのは相手が相手だけに普通は考えられない。盗賊程度がここまで強いというのはどう考えてもおかしい。これはただの盗賊ではないようだ。ジョーは地に倒れ伏した時ようやくそのことに気付きました。
同時に物陰から様子を窺っていたバスコもジョーと同じことに気付いたのでした。ジョー達にしてもバスコにしてもルカの襲撃を当然のごとく予期してそれに対処することに焦っていたために、突然襲撃してきた宇宙船の形が特殊であることをうっかり見落としていたのです。

0154.jpg宇宙船は最近では珍しい帆船型のもので、船体の色は真っ赤でした。ジョーもバスコもそれぞれザンギャック軍情報筋から真っ赤な帆船に乗った真っ赤な謎の怪人の噂は一応聞いていました。最近急に宇宙各地で傍若無人に暴れ回るようになった謎の真っ赤な宇宙海賊、「赤き海賊団」と名乗っているらしいが、その構成員や行動目的は全く不明で、行動パターンに規則性も全く無い、全くの神出鬼没の海賊で、様々な星に突然現れて、食い止めようとする各地のザンギャック警備兵たちを一蹴してザンギャック軍支配地奥深くに侵入し、散々暴れた後、財宝や物資を盗むこともなく立ち去っていくという。噂によるとザンギャック軍のいない無人星にも出没しているらしく、どうやら単なる略奪や乱暴狼藉だけが目的ではない様子で、何やら不気味な宇宙海賊だとの話です。
そういう噂は聞いていたものの、差し当たって帝国の重大な脅威というほどのものでもなく、自分達にも直接関係ない話であったので、ジョーもバスコもその「赤き海賊団」のことは失念していました。そこに新人部隊とはいえ特殊部隊が一瞬にして叩き潰されたことで、ようやくジョーもバスコも目の前にいる赤い男が噂の「赤き海賊団」であることに気付いたのでした。
だが、どうして「赤き海賊団」がこの武器倉庫を襲うのか、理由は全く分かりません。もともと行動目的不明の海賊なのですから、全く見当がつかない。しかしわざわざ此処を襲ったということは、何かを奪うためであると考えるしかない。では何を奪おうとしているのか、それはよく分からない。それについては深く考えても正解には辿り着けないだろう。だがジョー達はとにかくこの場にエナジークリスタルを死守するために来ている。もし「赤き海賊団」にクリスタルを奪われたら大失態です。
だからとにかくこの場合、「赤き海賊団」がクリスタルを奪うために襲ってきたと仮定してそれを阻止するために戦うしかないのだが、ジョー達は致命傷は免れたものの全身打撲と、ムチから発した電撃のショックでしばらく動けそうにない。その間に素早く真っ赤な男は倉庫の方に駆けていってしまいました。そして、それを見てバスコは慌てて物陰に潜みながら真っ赤な男の後を追いかけました。

バスコも真っ赤な男がエナジークリスタルを奪おうとしているという仮定のもとに行動している。それがバスコの立場から見ても最悪の仮定だからです。バスコはエナジークリスタルを盗もうとしてこの場にやって来るルカと接触するためにこの場に潜んでいた。ところがエナジークリスタルを「赤き海賊団」に奪われてしまったとするなら、そのことを察したルカがこの場に現れない可能性が高くなる。
いや、既にこの騒ぎのせいでルカの出現は無いかもしれないが、それでも此処にエナジークリスタルが残っている状況であればルカとてそう簡単に獲物を諦めないであろうから、どうにかしてバスコがルカと接触する工夫は出来る余地はある。しかしエナジークリスタルがこの場から奪い去られてしまえばもうどうしようもない。だからバスコはまず真っ赤な男の獲物がクリスタルなのかどうか見極めねばならない。
もし真っ赤な男がクリスタル以外のものを奪うのならばそのまま見過ごせばいい。だがもし真っ赤な男がクリスタルを奪おうとするのなら阻止しなければいけない。そう考えてバスコは即座にその考えを頭の中で打ち消した。先ほどの特殊部隊を一瞬で倒した男の実力を見る限り、自分が戦って太刀打ち出来る相手ではないことは明白だったからでした。真っ赤な男がクリスタルを奪おうとしたとして、バスコがたった1人でそれを阻止しようとしても敵うわけがない。但し、それはバスコが人間態のままであればの話である。
もし自分が秘められたカリブ人の完全態の姿をとれば、真っ赤な男を倒すことも容易であろうとバスコは思いましたが、しかしバスコは自分の正体を完全に秘匿することにしていましたから、よほどの生命の危機に陥らない限りは完全態になるつもりはありませんでした。
真っ赤な男のクリスタル奪取を阻止してルカと接触するというのは、バスコにとってはカインのために気まぐれの善意でやっていることに過ぎず、そんな程度のことのために完全態を人前に晒すわけがない。となると、もし真っ赤な男がクリスタルを奪おうとすればバスコは人間態のまま戦わねばならないが、人間態のままでは到底勝ち目は無い。だからバスコは真っ赤な男がクリスタル以外のものを奪ってくれれば幸いと考え、もし真っ赤な男がクリスタルに手をつけたら、今回の作戦は予想外のアクシデントで失敗したと思って諦めるしかないと考え、カインにもそのように報告するしかないと思いました。
瞬時にそうした方針を頭の中で固めたバスコが懸命に追うその真っ赤な男は武器庫に入ると、大急ぎでそこら中のものをひっくり返して何かを探し始めました。多数の特殊部隊員にいちいちトドメを刺す時間を節約して、特殊部隊員が行動不能になっている間に獲物を手に入れて脱出する方が効率的だというのが男の判断であったようです。たった1人で侵入してきた男にとってはそれは賢明な判断でありましたが、獲物を奪って脱出するまで時間制限があるということでもあり、男も多少焦りがあったようで、それでバスコの追跡にも気付いていなかったようです。
だが、どうやら最初から獲物の在り処には目星がついていたようで、短時間で真っ赤な男は目当ての物を見つけ出しました。それはガラクタ箱のような小汚い入れ物の中に放り込まれていた、指先でつまめるほどの小さな黒い人形でした。

0151.jpgこの真っ赤な男はジョーやバスコの推測したとおり、「赤き海賊団」を名乗る宇宙海賊であり、ジョーやバスコにはあずかり知らぬことですが、その正体はアカレッドです。そしてアカレッドが武器庫の中から見つけ出した人形は当然ながらレンジャーキーということになります。この時アカレッドが手に入れたレンジャーキーはメガブラックのレンジャーキーであり、ナビィのナビゲートを受けてこの星のザンギャック武器倉庫の中にレンジャーキーがあることを知ったアカレッドがたまたまこの日にジョーやバスコ達がいた武器倉庫に突入してきたのです。
アカレッドの最も優先すべき目的は、まずはレンジャーキーを手に入れることであり、次いで大事なことは自分がレンジャーキーを集めていることを外部に秘密にすること、特にザンギャック軍には知られないようにすることでした。もし自分がレンジャーキーを集めていることをザンギャック軍が知ったら、それを手掛かりにして地球のスーパー戦隊が戦闘不能になっていることに気付かれてしまう可能性もゼロではないからです。
そう考えたアカレッドは万が一のそうした危険を排除するため、出来るだけザンギャック軍に見つからないように効率的にレンジャーキーを回収しようとしましたが、実際はなかなかそう都合よくもいかず、ザンギャック軍と戦いながらレンジャーキーを回収するような局面も多かった。その場合、ザンギャックの兵士たちに気付かれないようにレンジャーキーを手に入れることが出来れば良いのだが、仮に自分がレンジャーキーを手にしたところを目撃されれば、目撃者は皆殺しにするしかありませんでした。
何せ宇宙の運命が懸かっているのであり、ザンギャック軍は基本的に敵なのでこれは仕方ないことだとアカレッドも割り切っていましたが、それでも無闇に皆殺しにするのもあまり気分が良いものでもない。だから今回のように敵を戦闘不能状態にした上で誰にも目撃されないようにして楽にレンジャーキーをゲットするというのがアカレッドとしては一番の上首尾ということになります。まぁ実際は毎回そう上手くいくわけもなく、アカレッドとしても自分とレンジャーキーの関係を目撃したザンギャック兵達を皆殺しにせざるをえないケースも多々ありました。アカレッドが宇宙各地でザンギャック軍相手に乱暴狼藉を働いていたというのはこういうことであったのです。
今回はゴーカイガレオンで倉庫を急襲して侵入し、警備兵たちを振り切って一気にレンジャーキーを奪って逃げるという作戦であり、途中で接触した特殊部隊はソウル降臨で召喚したアカレンジャーの武器、レッドビュートの一閃で瞬時に行動不能とし、その間に誰にも見られずにレンジャーキーを回収すれば今回は大成功というところでした。

だがバスコだけはアカレッドがレンジャーキーを手にする場面を物陰に潜んで目撃していた。バスコは真っ赤な怪人がクリスタルに手を出さなかったことに安堵するよりも、真っ赤な怪人が奇妙な人形を掴んだことに驚いていました。
この倉庫には多数のエナジークリスタルを筆頭に高額で売り飛ばすことの出来るザンギャック軍の重要物資や、ザンギャック軍が各地から略奪してきた財宝や珍品の類などが山のように転がっている。もともとそのスジの専門家ともいえるバスコにはそれらの品々の価値は全て分かっていました。真っ赤な怪人がそれらの品々の価値を全て把握しているのかどうか分からないが、怪人が海賊と名乗る以上はそこらに転がる物資や財宝の価値が分からないとも思えませんでした。
ところがその真っ赤な怪人はそれらの高価な品々には目もくれず、変な人形を手にとりました。偶然手にとったではなく、最初からその人形を目当てにしていたのであろうことはその怪人の一連の無駄の無い動きを見ていれば一目瞭然でした。しかしバスコはそんな人形のことは全く知らない。宇宙のあらゆる価値ある品物のことは把握していると自負していたバスコですら、そんな人形のことは知らなかったし、こんな小さな人形に価値があるなどという噂も聞いたことはないのです。
あるいは実際こんな人形には一般的な価値など無く、単にこの赤い怪人にとって個人的に拘りのある品に過ぎないのかもしれない。だが、そうだとするとこの怪人の行動は奇妙でした。個人的な事情が動機にしては、ザンギャック軍が特殊部隊まで繰り出して厳重に警備している倉庫に殴り込みをかけるとは、彼の行動は大掛かり過ぎるしリスキー過ぎました。
ここまで危険を冒した海賊がいくら自分のお気に入りの品であるからといっても、戦利品が人形1つだけというのはあまりにも割に合わない。真っ赤な怪人の足元にはもっと高価な品がゴロゴロ転がっているのです。ついでにそれらをくすねていってもバチは当たるまい。ところがその赤い海賊の怪人はそのちっぽけな人形にしか興味を示さない。まるでその人形の価値に比べれば他の品々などゴミクズ同然であるかのような扱いです。赤い海賊だってそれらの品々の価値を知らないわけでもないだろうに、それでもそんな態度をとるということは、その人形には途轍もない価値があるように思えました。

また、この赤い海賊の手際があまりに良いことから考えて、どうやら熟練というか、常習犯であることがバスコには何となく分かりました。つまり、この赤い海賊はこんなふうにしてあちこちで人形を手に入れてきたのだと思えます。
「赤き海賊団」の行動目的が不明だと言われているのも、まさか「赤き海賊団」がちっぽけな人形だけを奪ってきたということに誰も気付いていなかったからなのではないかとバスコは気付きました。となると、このような人形が宇宙のあちこちに存在しているということになる。
そして、どうして赤い海賊は此処にこの人形が存在しているということを知っていたのかという根本的な疑問点がありました。一般的に価値があると認められた品物であればこの倉庫に運び込まれたことは調べることも可能でしょう。しかしこの人形はほとんどガラクタのような扱いで倉庫の中に紛れ込んでいただけのようです。おそらくザンギャック軍のこの倉庫の管理者ですら、そんな人形が此処にあることは知らなかったことでしょう。なのに何故、この赤い海賊はこの人形が此処にあると知ることが出来たのか謎でした。考えられるのはこの人形を探知する何らかの独自のシステムが存在するということですが、もしそんなものがあるとすれば、宇宙に散らばるそれらの人形はどう考えても普通の代物ではない。

詳しいことは分からないが、どうやらこの人形は非常に価値のあるものだということはバスコにも理解出来ました。だが、この宇宙のあらゆる物産を知り尽くしていると自負していたバスコですら、そんな人形のことは何も知らない。ということはつまり、まだまだ宇宙には自分の理解を超えた価値のある物が存在するのであり、この赤い海賊は自分の知らないことを知っているのだろうとバスコは考えました。そして、価値のある品物について自分よりも物知りな者に出会ったのは初めてであったバスコはその赤い海賊に強い興味を覚えました。
バスコはつい先日、「宇宙最大のお宝」を本気で手に入れようと決意したばかりですが、これまでバスコが知り得た宇宙の財宝の知識を基にする限り、手掛かりはゼロでした。自分が宇宙の財宝に関する伝説を全て把握しているという確信を持っていたバスコはそこで手詰まりになってしまっていたのですが、自分でも知り得ないような宇宙に隠された秘密の価値ある物について知っている者がいるというのなら、あるいは「宇宙最大のお宝」についても何か知っているのかもしれない。
この赤い海賊の集めていると思われる人形が「宇宙最大のお宝」と何か関係があるとは限らないが、この赤い海賊ならば宇宙海賊の伝説の「宇宙最大のお宝」について何か知っているのではないかと考えたバスコは、思わずその赤い海賊に向かって声をかけてしまいました。
これは自分の夢の実現にとっての千載一遇のチャンスなのではないかという想いに駆られたバスコは、もはやカインとルカを引き合わせる約束のことなど忘れていました。もともとバスコには全く無関係の話であり、気まぐれで協力していたに過ぎない。そんなことよりも自分自身の夢の方がバスコにとっては大事でした。この赤い海賊はきっと「宇宙最大のお宝」について何か知っているに違いないという、何故か確信めいたものをバスコは感じたのです。

だから何か話が聞ければと思って吸い寄せられるように声をかけてしまったバスコでしたが、いきなり背後から話しかけられた赤い海賊、すなわちアカレッドの方は驚きました。つい焦って周囲に注意を払うのが足りなかったのか、何時の間にか近くで自分を観察していた者がいたのです。
慌てて振り向いたアカレッドに向かってバスコは、まずはその人形は何なのかと尋ねました。バスコとしては「宇宙最大のお宝」以外には実際はあまり興味は無かったのですが、一応話のきっかけ程度という意味合いでさしあたりその人形について質問してみようと思っただけでした。
だがアカレッドはそのバスコの言葉で、倉庫内に隠れていた男に自分がレンジャーキーを手に入れた場面を目撃されてしまっていたことを悟りました。此処はザンギャック軍の武器倉庫ですから、そんな施設のド真ん中でいきなり現れた男はザンギャック軍人と考えるのが当然です。つまりザンギャック軍人に自分とレンジャーキーの関係を知られてしまった。レンジャーキーの存在も知られてしまった。それは地球や宇宙の未来にとって危険な可能性を孕んでいました。その可能性の芽を摘むため、悪いがこのままこの男を生かして帰すわけにはいかないとアカレッドは思いました。
どうせ相手も自分を逃がすつもりはなく戦いを挑んでくるであろうから、先手必勝、さっさとこの男を倒してこの場を脱出しようと決めたアカレッドは、バスコの質問に答えることなく、問答無用で斬りかかりました。
一方バスコはいきなり殺意剥き出しで赤い海賊が斬りかかってきたので慌てました。人形の正体をそこまでして教えたくないということは、やはりこの人形は何か重大な価値を持ったものなのかもしれないと思いつつ、バスコはこの状況に困惑しました。どう考えてもこのままでは勝ち目は無い。逃げなければ殺される。そもそも逃げ切れるのかどうかも疑問でしたが、仮に逃げ切れたとしても、それはそれでバスコは困ります。まだ赤い海賊に「宇宙最大のお宝」について何も質問もしていないのです。
このまま逃げてしまうと、もう二度と赤い海賊に出会うことはないかもしれない。バスコは自分の夢の実現の千載一遇のチャンスを逃したくはありませんでした。そのためには逃げずに赤い海賊に質問するような状況にしなければいけないのだが、こうして戦い始めてしまった以上、それは自分が赤い海賊に勝利した上でしか有り得ない状況でした。だが現状ではどう考えてもバスコに勝ち目は無い。窮したバスコは一大決心をして、思い切って完全態に変身して応戦することにしたのでした。

0152.jpg不本意な形ではあったが、これで勝てる。これまで完全態となった自分に打ち勝った者は「宇宙最強の男」の異名を持つダマラスだけであり、いくら赤い海賊が強いとはいってもカリブ人の完全態に敵うはずがない。バスコはそう思いました。
ところが意外にもバスコとアカレッドの戦いは互角の戦いとなったのです。アカレッドもジョーたち特殊部隊との戦いで決して全力を見せていたわけではない。倉庫の中で現れた敵兵と思しき男がいきなり奇怪な姿に変身して反撃してきた当初は、その意外な強さに一瞬面食らいましたが、アカレッドもすぐに本気を出して全力で応戦して、戦いは互角となったのでした。
バスコはこの宇宙にダマラス以外に完全態の自分と1対1でまともに戦える者がいることに驚き、アカレッドもまた宇宙にはこれほどの戦士が存在したのかと舌を巻きました。だが、この倉庫内の2人の戦いはそう長くは続きませんでした。バスコとの戦いでアカレッドが余計な時間を喰っている間に廊下で倒れていたジョーたち特殊部隊員たちが回復して動けるようになり、倉庫内に突入してきたのでした。
倉庫の奥の方でバスコと戦っていたアカレッドは物音でそのことを察して、特殊部隊員たちがこの場にやって来る前に急いで脱出しなければいけないと考えました。こうなれば自分がレンジャーキーを持ってこの場を脱出することが最優先となります。レンジャーキーの存在を知った敵兵の始末はこの際もう諦めるしかない。そう決断したアカレッドはガレオンを操縦して上空から敵兵を攻撃して自分の支援をしてくれているナビィに迎えに来るよう信号を送り、倉庫に向かってガレオンを突っ込ませました。
そうして素早くガレオンに飛び乗ったアカレッドはナビィに命じてガレオンを飛び立たせてその場を脱出しましたが、バスコもまたアカレッドに追いすがってガレオンに飛び乗ってきており、アカレッドはガレオンの甲板上で引き続きバスコと戦う羽目となってしまいました。
一方、アカレッドにガレオンに乗り込まれてしまったジョー達はこのまま逃がすわけにいくものかと、宇宙船で追いかけようとしましたが、残念ながらガレオンの攻撃で飛び立てる宇宙船はもう残っていませんでした。そこでジョー達はこうなればガレオンごと撃ち落すしかないと、他の警備兵たちに命じて地上に残っていたありったけの火器を集めてガレオンに向けて対空砲火を浴びせました。
ガレオン内ではアカレッドがバスコとの戦いで手一杯で、ナビィも敵兵が乗り込んできたという予想外の事態にやや混乱状態で、このまま宇宙へ逃れてよいものかどうか1人では決めかねてガレオンは上空を右往左往してジョー達の砲火の的となっていました。

その頃、少し離れた森の中でバスコの戻りを待っていたカインは倉庫の方向に赤い帆船が突っ込み戦闘が開始したのを見て驚き、それでもしばらくバスコからの連絡を待っていたのですが、バスコもまた音信不通状態となってしまったので焦り、思い余って倉庫の方に1人でやって来ていました。倉庫の周囲は大混乱の状況で、砲弾が飛び交い大変危険で、カインは思わず立ち尽くしました。そのカインの目の前にいきなりボロ服に身を纏った女盗賊、ルカが現れたのでした。
ルカもまたこの倉庫周囲の異常な状況に目を丸くして驚いていました。自分よりも一足早く倉庫を襲った海賊船と思しき宇宙船が派手にザンギャック軍と戦っているのです。ルカはてっきりその海賊船も自分同様にエナジークリスタルを狙ってきたのだと思い、パッと見た感じではクリスタルを奪って海賊船が逃げようとしているのか、クリスタルを奪おうとして襲ってきた海賊船に警備隊が応戦しているのかかよく分からず、ルカは焦りました。
転売屋が警告していた特殊部隊とやらは見たところ何処にいるのかよく分かりません。おそらく特殊部隊は海賊に倒されたのか、あるいは健在だとしても海賊との戦いに忙殺されていると見受けられ、ルカは今なら容易に倉庫の中に侵入できると察し、とにかく今クリスタルがどういう状況なのか確かめようと、倉庫に向かって飛び込んできたのでした。
そこでカインと出くわしたわけですが、砲煙の中でルカに気付いたのはカインの方だけで、ルカは倉庫の方に注意を向けていたので少し離れた位置に立っているカインの存在に気付いていません。カインは遂にルカに出会えた嬉しさを爆発させて大声でルカの名を呼びましたが、その時、上空から地上のザンギャック軍目がけてナビィが一斉発射したガレオンキャノンの砲弾の1つがカインの近くで炸裂し、カインは爆風で吹っ飛ばされてしまいました。

ルカはどういうわけかこのような場所で懐かしいカインの声が自分を呼んだように聞こえたような気がして振り向きましたが、そこには当然ながらカインの姿は無く、空耳だと思い、少し苦笑いして倉庫に入っていきました。このようなところにカインがいるわけもなく、仮にカインが会いに来たとしても、さんざん偉そうなことを言って故郷を飛び出した挙句、盗賊になってしまった自分がどの面下げてカインの前に立つことが出来るのだろうか。
それでも夢を叶えるために自分には盗賊になるしか選択肢は無かったのであり、こうして夢に向かって金を貯めていっているという現状を悔やんではいないルカではありましたが、あの故郷の仲間たちと共に正しくつつましく生きていた頃の自分はもはや存在しない以上、今の自分はもうカインたち故郷の仲間たちと再会することは出来ないだろうと諦めていました。
夢に拘って目の前の現実に向き合い切れていなかった自分をカインは心配してくれていた。そのカインを捨てて、故郷の現実を捨てて、自分はあくまで夢を選んで飛び出してきたのです。故郷を捨てて夢を選んだ自分をカイン達は見損なったであろうし、自分もカイン達に申し訳ないとは思っている。ましてやその挙句、盗賊となったのです。カイン達に合わせる顔など無い。そう覚悟をした上で夢のために盗賊の道を選んで久しいというのに、ここでカインの声を空耳で聞くとはいったいどうしたことだろうかとルカは自分が少し可笑しくなりました。
夢を叶えるには決して順調とはいえない盗賊稼業につい弱気になって故郷が恋しくなったのだろうかと自分の心を怪しんだルカでしたが、ここで弱気は禁物、この状況でなんとかクリスタルをゲットして一気に貯金を増やさねばならないと気を引き締め直し、倉庫の奥に駆けていきました。すると倉庫の中はムチャクチャになってしましたが、奇跡的にクリスタルは全部無事であり、ルカはまんまとその場に運び込まれていたエナジークリスタルを全部奪い、脱出することに成功したのでした。

そのルカを捕えて殺すよう命令されていたはずの特殊部隊のジョー達がこの肝心のルカの侵入や脱出に対して全く妨害らしい妨害も出来ず、それどころかルカの出現に気付くことすら出来なかったのは、やはりルカの推測したように上空のガレオンとの戦闘に忙殺されていたからであり、しかも結局は強大な火力を誇るガレオンに圧倒されて完敗を喫していたからでした。
カインが吹っ飛ばされたガレオンキャノンの一斉砲撃の際にジョーたち特殊部隊やその他の警備兵たちもほとんど戦力を喪失し、ほぼ全員戦闘不能状態に陥っていました。そんな中を悠々とルカは仕事を済ませて人知れず姿を消し、ガレオンもバスコと交戦中のアカレッドの指示がようやくナビィに届いて、ナビィはバスコを乗せたままとにかくその場を離脱していきました。そうして倉庫の周囲にはザンギャック兵たちが無残に横たわる沈黙の空気が流れました。
そんな中、爆風に吹っ飛ばされて倒れていたカインが目を覚まして起き上がりました。爆風で特に大きな怪我は負ってはいなかったカインでありましたが、地面に叩きつけられた時に脳震盪を起こして気絶していただけでした。目を覚ますともはやそこにはルカの姿は無く、一瞬だけの邂逅の後、結局またカインとルカは離れ離れとなってしまいました。また、バスコの姿もやはり見当たりません。だが、とにかくこの場に無関係のはずの自分がこのまま居続けると何かと事情を聞かれて疑いをかけられては面倒なことになると考えたカインは、そそくさとその場を立ち去り、森の中に隠してあった自分の宇宙船に乗ってその場を去っていきました。

さて一方、倉庫から離脱して飛行するゴーカイガレオンの甲板上ではアカレッドとバスコの戦いが続いていました。アカレッドはバスコのことをザンギャック兵だと思っていますので、あくまで倉庫を襲撃した犯人である自分を倒すために追いすがってきているのだと思っていましたが、実際はバスコは赤い海賊から「宇宙最大のお宝」について何か情報を聞きだそうとして追いすがってきているのでした。
だから別にバスコはアカレッドへの殺意があるわけではない。しかしアカレッドはバスコが自分を殺しに来た敵兵だと思っており、しかもレンジャーキーの存在を知ったザンギャック兵だと思い込んでいますから、口封じのために殺さなければならないと決意し、殺意剥き出しに全力で倒しにかかっています。
一方のバスコは「赤き海賊団」について尾ひれのついた噂でかなり残虐で恐ろしい連中だと聞いていましたので、こうして殺意剥き出しでアカレッドが襲い掛かってくることに大して意外な感は無く、赤い海賊はこういう問答無用な荒くれ者なのだろうと勝手に納得していました。だからバスコは赤い海賊を説得して戦いを止めることなど出来ないと決めつけており、こうなればこっちも全力で戦って打ち勝ち、相手を降参させる形でしか戦いを終えることは出来ないと思っていました。そうやって戦いを終えた後で、「宇宙最大のお宝」について知っていることを聞きだそうと思い、とにかくバスコも全力で戦っていました。
そして、その1対1の勝負は結局はかなり苦戦したもののアカレッドの勝利に終わりました。バスコはまさか完全態となった自分をサシの勝負で負かす者がダマラス以外にこの世にいるとは信じられませんでしたが、最後には完膚なく打ちのめされた身体はダメージによって人間態に戻ってしまい、動かすことも出来ずガレオンの甲板上に横たわり、あとはトドメを刺されるのを待つだけとなります。

アカレッドもさすがにサシの勝負で自分をここまで苦戦させた敵戦士が強く印象に残ったようで、トドメを刺す前に敬意を表して名を聞いておこうと思い、倒れたバスコに向かって今まで戦った相手の中で最も恐るべき強敵であったと称えた上で、さぞ名のあるザンギャック軍人なのであろうと言い、最期に名前だけ聞いておきたいと申し出ました。
これに対してバスコは自分はザンギャックの軍人ではないと答えました。実際のところ、ここ数年はバスコはザンギャックの仲間のようなものだったが、それでも軍人ではありませんでしたし、ましてや今はもうザンギャックとは決別する決意を固めていました。それゆえバスコはアカレッドの何者なのかという問いかけに「海賊だ」と答えました。実際、私掠船とはいえバスコのやっていたことは海賊活動そのものであり、ダマラスと出会う前のバスコも海賊のようなものであり、何よりバスコは海賊の伝説の「宇宙最大のお宝」を手に入れようとしていたわけですから、バスコとしても自分を「海賊」と定義するしかありません。
アカレッドはてっきり敵兵だと思っていた男が実は海賊だったと聞き驚き、どうして海賊があんな場所にいて自分を襲ってきたのかと質問しましたが、これに対してバスコは冗談じゃないと怒りを示します。襲ってきたのはそっちだろうというバスコの抗議を受けてよく状況を思い出したアカレッドは、確かに冷静に考えれば最初に話しかけてきた相手を敵兵だと勘違いして口封じのために手を出したのは自分の方だったと気付き、相手の言うことに一理あることを理解しました。
ならばあの状況でどうして海賊があそこに居て自分に話しかけてきたのかと疑問に思ったアカレッドが質問すると、バスコは自分はただアンタが「宇宙最大のお宝」について何か知っているんじゃないかと思って質問しようとしただけだとぶっきらぼうに答えました。いきなり「宇宙最大のお宝」の話題が出たことに仰天したアカレッドはそんなことを聞いてどうするつもりだったのかと問い、バスコはそれはもちろん俺が「宇宙最大のお宝」を手に入れようとしている海賊だからだと素直に答えました。

それを聞いて、アカレッドは自分が探していた「宇宙最大のお宝を手に入れようとしている宇宙海賊」が意外な形で見つかったことに気付き、そんな相手を勝手に敵だと勘違いして必死で戦っていた自分のことがなんとも滑稽に思えてきて、思わず大笑いしてしまいました。笑っては失礼だと思い、バスコに向かってそれは申し訳なかったなと言いながら、それでも自分のマヌケぶりが可笑しくて笑いを止めることが出来ないアカレッドを見て、バスコもつられて苦笑して、いくら何でもこれはあんまりだと愚痴りました。
ただ、それでもバスコは自分はこのまま殺されるのだろうと覚悟していました。自分がザンギャック軍人であろうが海賊であろうが、とにかく自分がこの赤い海賊の他人に知られたくない場面を見てしまったようであることは事実であろうと思われ、結局はこの海賊は自分を口封じのために殺すつもりだろうとバスコは思いました。「赤き海賊団」というのはそれぐらい凶悪な相手だと噂に聞こえていたのです。
それに何より、自分はカリブ人の完全態の姿を晒して負けてしまった。この宇宙で生きていてはいけない存在であることを自ら明かして負けてしまったのです。赤い海賊も自分の正体を知ってさぞ忌まわしく思ったであろうし、このままここで殺されても当然だとバスコは覚悟したのです。
おそらく赤い海賊が大笑いしているのは「宇宙最大のお宝」を本気で手に入れようとしている自分の馬鹿さ加減を嘲笑ってのことなのであろう。となると、やはりこの海賊も「宇宙最大のお宝」のことはタダの伝説だと思っており、特に目ぼしい情報は持っていなかったということなのかとバスコは推測しました。つまり、とんだ見当違いだったというわけで、これはどうも最後の最後にしくじったようだと少し悔やみましたが、それでもバスコはここまで全力で戦って負けたのだから、これもまぁ仕方ないと思いました。
せめてザンギャックの軍人だと勘違いされて人生を終えるのではなく、「宇宙最大のお宝」を本気で掴み取るという途方もない夢を追う海賊として記憶されて死んでいくのも本望だと開き直り、バスコは笑い続けるアカレッドに向かって、笑いたければ笑うがいいと嘯き、「宇宙最大のお宝」は必ず存在すると断言し、俺は必ずこの手でそれを掴み取ってやると力強く言い切って睨み返しました。

それを聞いてようやくアカレッドの笑い声は止み、アカレッドは大きく息をついて、そうかと言いました。とうとう最期かとバスコは覚悟しましたが、意外にも赤い海賊はバスコの前に座り込むと、ならば一緒に来ないかと誘ってきたのです。予想外の展開に呆気にとられるバスコに対してアカレッドは、実は私も「宇宙最大のお宝」を手に入れたいと思っているのだと言い、そのための方法も知っているのだと言いながら、先ほど手に入れたばかりのメガブラックのレンジャーキーを取り出して、鍵型に折り曲げて指先でつまんで掲げてみせました。
それを見てバスコは、やはりこの不思議な人形が「宇宙最大のお宝」と関係しているアイテムだったのだと悟り、驚愕しました。赤い海賊が「宇宙最大のお宝」の実在を仄めかしたこと自体にはバスコは不思議なことにあまり驚きは感じませんでした。それぐらい、バスコの心の中では「宇宙最大のお宝」が実在するということは既に確信に変わっていたのです。驚愕したのはこのちっぽけな人形が「宇宙最大のお宝」を探すためのカギであるらしいという意外な事実と、既に赤い海賊がそのために行動を起こしていたということでした。
そうして絶句して見つめるバスコに向かって赤い海賊は、自分の名はアカレッドといって「赤き海賊団」のリーダーであると名乗り、自分は海賊の誇りをかけて「宇宙最大のお宝」を手に入れようとしているだけであり、別に宝を独り占めしたいわけではないと言い、まだお宝に至る道のりは遠く、実のところ1人では苦しい、だから同じ志を持った仲間が必要なのだと、バスコを仲間に誘う理由を説明しました。そしてバスコの手を握り、勘違いして怪我させたことは改めて詫びると言って謝罪し、「赤き海賊団」に加入して一緒に「宇宙最大のお宝」を掴み取らないかと熱く誘ったのでした。

この急展開に対してバスコはすぐには到底アカレッドの本気を信じられず困惑しました。さっきアンタは俺の正体がカリブ人だというのを見たはずだと指摘し、カリブ人を仲間に誘うなんて到底本気とは信じられないと反論するバスコの言葉の意味がアカレッドにはあまりよく分かりませんでした。それでカリブ人とは何なのかと逆に質問してきたアカレッドの無知にバスコは呆れ、カリブ人というものが宇宙でどれだけ迫害されているのか説明しました。
だがアカレッドにはそんなことは結構どうでもいいことであったので、別にお前がカリブ人だろうが何だろうがそんなことはどうでもいい、「宇宙最大のお宝」を手に入れようとしている者ならば大歓迎だと事もなげに言うと、そんなに正体を他人に知られるのが都合が悪いのならば、主に船内で雑務を担当してくれればいいとまで申し出ました。
ここまで言われてようやくバスコもアカレッドが本気で自分を仲間に誘っているのだと悟り、こんな人間にはこれまで出会ったことがないと大いに驚き、考えた末、遂にアカレッドの誘いに応じて「赤き海賊団」に加入し、アカレッドと共に「宇宙最大のお宝」を探す旅に出ることを決意したのでした。
そうしてバスコは改めてバスコ・タ・ジョロキアだと名乗り、アカレッドに対して、アンタと一緒に「宇宙最大のお宝」という夢を掴み取る旅に出たいと自分から申し出て、アカレッドはもちろん歓迎すると応え、こうして「赤き海賊団」はアカレッドとナビィに加えて新たにバスコという仲間を加えて3人となったのでした。

一方、ゴーカイガレオンによって破壊されてしまった武器倉庫の傍らで倒れていた特殊部隊員たちの生き残りはその後救護班によって救出され、ジョーも病院に収容され、少し経って回復してからダマラス軍の事情聴取を受けました。そこでエナジークリスタルは結局全て奪われたと聞き、ジョーは落胆しました。任務は大失敗に終わり、自分の経歴に大きな疵がついてしまった。いや、それどころか重い処分が下る可能性もある。暗澹たる気分となったジョーでしたが、意外にも処分も無く、今回のことは仕方なかった、よく頑張ってくれたとねぎらいの言葉までもかけられました。
どういうことなのかと問うジョーに対してダマラス軍の士官は、今回の任務はあくまで盗賊対策であり、「赤き海賊団」の襲撃までは想定していなかったのであって、任務の失敗は現場の特殊部隊の落ち度ではないのだと説明しました。それはつまり「赤き海賊団」の相手は特殊部隊の新人隊員たちでは無理だと言っているに等しい。実際確かに自分達はあの赤い海賊に圧倒されてしまったわけだが、それはあくまで現場で戦ってみて初めて知った実力差でした。軍の上層部も自分たち同様に「赤き海賊団」のとんでもない強さを把握しているということを意外に思ったジョーは、いったい「赤き海賊団」とは何者なのかとダマラス軍の士官に質問しました。
すると士官は「赤き海賊団」こそがザンギャック帝国に対する最大の反逆者であり、多数の惑星を巻き込んだ大反逆組織の要に位置して帝国に深刻な脅威を与えている手強い敵なのだと教えてくれたのでした。ジョーは驚き、自分が恐るべき敵と遭遇していたのだと戦慄すると同時に、自分が帝国を守護する戦士となるためには「赤き海賊団」こそ倒さねばならない宿敵となるのだと強く心に刻み込み、更なる精進を重ねてもっと強くならねばならないと闘争心を熱く燃やしました。
だが実際のところは「赤き海賊団」はそんな大それた組織ではない。ザンギャック軍の側はもともとあの事件の時点では「赤き海賊団」を目的不明の謎の宇宙海賊としか把握していませんでした。不気味な存在ではありましたが、宇宙規模の反逆組織の仲間だなどという認識は存在していませんでした。そもそも宇宙規模の反逆組織などというもの自体がアクドス・ギルやダマラスのでっち上げた実体の無いものなのですから、「赤き海賊団」がそれに関係などあるはずもない。それがどうしてあの倉庫襲撃事件後の僅かの間にそんな大それた話になってしまったのかというと、全てダマラスが勝手にそうでっち上げたからでした。

今回、特殊部隊まで繰り出した作戦が失敗してエナジークリスタルを大量に奪われてしまった結果、エナジークリスタルを奪われたという事態を隠蔽すること自体が出来なくなってしまったのがダマラスにとって最大の問題でした。
実際に「赤き海賊団」とかいう謎の海賊がクリスタルを奪ったのかどうか、実は報告では曖昧でした。確かなことは「赤き海賊団」が倉庫を襲撃したということと、その後倉庫からクリスタルが消えていたということだけであり、「赤き海賊団」がクリスタルを奪うところを誰も目撃したわけではない。「赤き海賊団」はこれまでも行動に一貫性が無く謎の行動を繰り返していましたから、ダマラスとしても本当に「赤き海賊団」がクリスタルを奪ったかどうか断定することは出来ませんでした。
特に不審であったのは盗まれたクリスタルがその後すぐに盗品の転売屋を通じて自分の許に売り込みという名の脅迫がなされたということです。それはこれまでも幾度か繰り返されてきた女盗賊ルカ・ミルフィの事件と同じパターンであり、そこから推理すると、やはり今回もルカの犯行であるようにも思えてくる。逆にこれまで「赤き海賊団」の関与した事件でこのような展開が生じたことは一度も無い。どうも今回の事件は妙で、これはあるいは「赤き海賊団」の目的不明の襲撃に便乗して女盗賊にまんまとしてやられたのではなかろうかとダマラスは推理しました。

ただ問題はもはやそんなレベルの問題ではない。これだけ大規模な事件となってしまった結果、エナジークリスタルを盗まれたという自分の不手際がもはや隠蔽出来なくなってしまったということがダマラスにとっては大問題でした。皇帝の専有物であるエナジークリスタルを運搬中に盗まれたのですから、皇帝の不興を買うことは間違いない。こうなれば少しでも疵口を小さくするしかないとダマラスは必死で考えました。
この上チンケな女盗賊に出し抜かれたとなれば、ますます皇帝の機嫌を損ねるであろうし、何より「宇宙最強の男」という自分の称号に大きな疵がつくことになる。そこでダマラスは今回の事件を逆手にとって、エナジークリスタルを盗んだのは「赤き海賊団」という宇宙海賊であり、それは今回帝国が対峙することになった宇宙規模の反逆組織の中心となる悪質かつ強力なテロ集団であり、これまで実際はルカに奪われた分も含めて大量のエナジークリスタルを強奪してきたのだという架空の話をでっち上げることにしたのでした。
「赤き海賊団」が謎めいた海賊であるということもダマラスにとっては好都合でした。誰もその実態を把握していないのですから、参謀総長のダマラスが独自に調査した結果だと言って声高に主張すればそれが何となく事実として浸透する状況にあったのです。
そうしてダマラスは単にクリスタルを奪われっぱなしではなく、ちゃんとその手強い「赤き海賊団」を追撃して、取り逃がしはしたもののクリスタルは全て奪還したという成果を誇ることも出来るようになりました。実際はあちこちから借金して転売屋から高額で買い戻しただけのことだったのですが、そんなことは恥ずかしくて公表出来ませんから戦って奪還したということにするしかない。こうして結果的にダマラスは重要物資を盗まれる不手際はあったものの、凶悪なテロ集団に一矢報いて実質的な被害を帳消しにしたという武名も誇り面目を何とか維持することが出来ました。

つまりダマラスの面子や立場を守るために「赤き海賊団」は帝国最大の反逆者という汚名を被せられることとなってしまったわけですが、皇帝アクドス・ギルはこれらダマラスの「赤き海賊団」に関する言説が嘘であることは当然分かっていました。そもそも「宇宙規模の反逆組織」などというもの自体が存在しておらず、アクドス・ギルとダマラスとででっち上げた実体の無いものなのですから、その要が「赤き海賊団」であるなどというお話が事実であるはずはない。
おおかたチンケな海賊に出し抜かれたのを自分の立場を守るために針小棒大に言い立てているのであろうと見破り、アクドス・ギルはダマラスに不快感を覚えました。また、先の地球での戦いの顛末を知っている総司令部の幕僚たちの中にも宇宙規模の反逆組織の実在に内心では疑問符を抱いている者も多かったので、彼らの多くも今回のダマラスの主張を胡散臭く感じていました。
ただ、それでも皇帝アクドス・ギルがダマラスの主張を追認したため、内心不審に思っていた幕僚たちもこの言説を黙認することとなったのです。どうして明白な嘘だと知り不快に思いながらもアクドス・ギルがダマラスの言説を支持したのかというと、それは自分にとって都合がよいからでした。
そもそも今回の反逆組織をでっち上げての征討戦争をアクドス・ギルが計画した動機は危機を演出しての帝国の支配体制の引き締めと、その戦争を華々しく勝利することで自分の権威を高めることでありましたから、反逆組織に「赤き海賊団」という凶悪テロ集団が加わることで更に脅威が増すということは、そもそもの目的に合致していたのです。
どうせ一方的な虐殺に過ぎない征討戦争は自分の勝利に終わることはアクドス・ギルには分かり切っていましたから、敵がより強力な印象となってくれていた方がより自分の箔がつくというもので、アクドス・ギルにとっては歓迎すべきことであったのです。だからアクドス・ギルはあえてダマラスの嘘に付き合ってやることにしたのでした。ダマラスもまたそうしたアクドス・ギルの武人としての心の機微を見越して、彼にしては珍しくちょっとした追従のようなつもりでもありました。

こうしてダマラスとアクドス・ギルの思惑が一致して、「赤き海賊団」は「帝国最大の反逆者」という汚名を被せられる羽目となったわけですが、実際はそんな大それた敵ではないことはアクドス・ギルは当然分かっていますから、そんなチンケな海賊の討伐をわざわざ皇帝たる自分がやる必要があるとは思いませんでした。それはダマラスが勝手にでっち上げた敵であるのだからダマラスが責任をもって始末すればいい。
そう考えたアクドス・ギルは「赤き海賊団」の討伐はダマラスに命じ、ただしダマラス自身は本星から動いてはならないという従来からの訓示は維持しました。ダマラスは相変わらず面倒なことだと思いながらも、今回はとにかく処分を受けずに済んだだけでも幸いだと胸をなでおろしました。
紆余曲折はあったがとにかくこれでエナジークリスタルは全て本星で戦闘準備態勢に組み込まれて運搬業務も終わり、あとは皇帝アクドス・ギルが幕僚たちを引き連れてギガントホースに乗り征討戦争に出陣する運びとなり、ワルズ・ギルと共に本星に留守番のダマラスは皇帝に命じられたとおり「赤き海賊団」の討伐の指揮をとればいい。
そこで改めて「赤き海賊団」の情報を集めてみたダマラスは、つい最近「赤き海賊団」に新たな主要メンバーが加わったらしいと聞き、最新の襲撃された場所で撮られた画像を見て驚愕しました。そこに映っていたのはバスコであったのです。そういえば最近バスコとは音信不通状態でありましたが、そんなことはよくあることであったので特に気にも留めていなかったのです。そのバスコが以前から確認されていた赤い仮面の男と共にいる画像を見て、ダマラスはバスコが自分から離反してよりによって「赤き海賊団」に加わって帝国に敵対したと初めて知り、激怒しました。
どうしてそんなことになっているのかよく分かりませんでしたが、ダマラスは今まで散々目をかけてきてやったというのによくも舐めた真似をして恩を仇で返してくれたものだと思い、あるいは今回の倉庫襲撃事件もバスコが裏で糸を引いていたのかもしれないとも邪推して、バスコに対してドス黒い怒りの炎を燃やすのでした。
にほんブログ村 テレビブログ 特撮へ
にほんブログ村 にほんブログ村 テレビブログ スーパー戦隊へ
にほんブログ村
posted by 通りすがりのシンケンブラウン at 10:44 | Comment(2) | 海賊戦隊ゴーカイジャー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは。
番組では描かれていない、主要キャラクターについての
第1話以前の物語を書いてくださって、ありがとうございます。

ゴーカイジャーという番組を非常に気に入っているのですが、
今までは、第1話以前についての説明が少ないことが残念でした。
しかし、その残念なことが楽しみになるとは。

今回(その14)はバスコ視点を堪能させていただきました。

思えば、彼は見ていて実に不愉快な奴でした。

「宇宙最大のお宝」の存在を信じることはできるが、仲間は信じていない。
「何かを得るためには何かを捨てなきゃ」と考えているが、
夢のために自分のエゴを捨てようとは思わない。

しかし、マーベラスとは対照的な考え方を示しているという点で、
重要なキャラクターでもあったように思います。
そして、考え方がすべて間違っているわけではなく、もっともらしい点もあるという点で、
マーベラスよりもリアルなキャラクターのように感じていました。

これからの物語も楽しみにしております。
Posted by ゴーカイブラウン at 2013年04月29日 23:57
>>ゴーカイブラウン様
いやまぁ全部妄想なんですけどねw
本編で描かれていたことの伏線を勝手に作ってやろうという
極めてマニアックな作業です
Posted by 通りすがりのシンケンブラウン at 2013年04月30日 16:51
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。